23.魔物を倒したら、素材を取ろう!
「魔銃奏者だとは思わなかったよ」
勝気そうな美人は髪をかき上げながらアリスに言う。
「悪いことしたね、私らが横から割り込んだみたいになっちまった。魔銃奏者なら私らが手出しするまでもなかったのに。どうりで軽装な訳だ」
言われてアリスは自分の恰好を見る。膝下まで丈のある黒のワンピースにカーディガン。裾にはフリルが付いている。
だって、これで良いってブレーメンが言ったんだもん。
対して、三人は自衛隊とかが着ていそうな動きやすく丈夫な服を着ている。要所要所に付けられている鎧めいたものは、何らかのモンスターの殻や鱗で出来ているようだった。
「私の名前はメイアイラ。みんなメイアって呼ぶよ」
そう言って差し出してきた右手を、アリスは握った。
「俺の名はアリス。助かったよ。この辺のことに疎くてね。相方はそこでひっくり返っちまってるし」
「助けになったなら良かったよ。そこの二人はニッチとサッチ。モウ兄弟といえば、この辺りじゃ知れた冒険者だよ」
パイルバンカーを持った戦士と、素手で戦ってた戦士が、ニカッと笑う。
メイアイラは人族、ニッチとサッチはオーガ族だと、その外見からアリスは判断した。
「よろしく」
「よろしく」
感じの良い三人のことを、アリスはすっかり気に入った。中間管理職の目がそう言っているのだ。間違いはないだろう。
「早速なんだが——」メイアイラは少しバツが悪そうに言った。「あのゴーレムの取り分のことだけど——」
ゴーレムの亡骸から取れる素材のことを言っているのだろう。
アリスは察した。
「良いよ、全部持って行ってくれ」
「良いのかい? 助かるよ、それでなくてもゴーレムは素材の取り分が少なくてね。土ばっかりなんだ」
「何ならこいつも持ってきなよ」
アリスは乱暴にブレーメンを蹴った。するとその動作でバイコーンの頭がずるりとブレーメンの頭からとれる。そこから出て来たブレーメンの顔は、アリスに蹴られたことを露骨に喜んでいる表情だった。
生きてんな。
アリスは冷めた眼差しをブレーメンに送る。ブレーメンはときめいた。
「メイア!」パイルバンカーを装備していたほう、ニッチが言う。「ゴーレムの心臓が取れたよ!」
「おっ! なかなか良いサイズだね。これならモーターマシンを動かした分で、十分元が取れそうだ」
「後は土塊ばっかりだ」サッチが言う。
「だろうね。腹の中はどうだい?何かめぼしいものでもあれば良いけどね」
「おっ! バイコーンの蹄だ」
三人のやり取りを見ながら、アリスはすっかりこの気の良い三人を好きになってしまった。それに目の前で行われる、ゲームの中のリアル再現みたいな作業に、興味津々だ。
「ちょっと見て来ても良い?」
アリスはそういうと、返事を待つことなくぴうっと駆け出す。
「あ、ちょっと、せっかくの服が汚れるよ?」
メイアイラは止めたが、アリスは「平気ー」と言ってニッチとサッチの作業を間近でのぞき込む。
「やれやれ。それにしても、ずいぶんと可愛らしいお嬢さんだ」
「で、げしょう」
歯型の付いたブレーメンが答える。
嬉しそうに、でも邪魔にならないように、ニッチとサッチの周りを動くアリス。そんなアリスに、ニッチとサッチも嬉しそうに相手する。その光景に、メイアイラの頬がほのかに赤く染まった。
「まるで妖精ね」
「君もその妖精の輝きに負けていないよ」
歯型の付いた美青年が、メイアイラを口説く。彼女はブレーメンが自分の肩に伸ばした手を勢い良く払いのける。
ぱあーんと良い音がして、払いのけられた右腕の勢いもそのままに、ブレーメンは一回転すると今度は右手からバラの花を一輪差し出す。
いらない、と手で拒否するメイアイラ。なにしろ何かを期待するような、それでいて蕩けそうなブレーメンの笑顔が気持ち悪いのだ。
「大体、何だいあんたは? こんな場所にそんなスーツ姿で入ってくるなんて——」
そこまで言ってメイアイラは、ふと気が付いた。
見た目はスーツだが、こいつが着ているのはもしかしなくても、霊獣の毛で織り込んだ物理も魔法も耐性ばっちりの装備か!?
「そのスーツ、その腰の光剣、もしかしてあんた——」
メイアイラの言葉に、ブレーメンは両手を広げ口にバラをくわえ、決めのポーズを取る。
「そうです! 私がブレーメン・エン・バレンタインです!」
唇にぶち刺さる薔薇の棘。したたる血。
噂に違わぬ変態だなと、メイアイラは思った。
「すごいなあ、こうやって素材は剥ぎ取るのかあ」
バイコーンの脚から綺麗に鉈で蹄を剥ぎ取る作業を見ながら、アリスは昔やっていたゲームを思い出し、感慨深げにため息をついた。
あの頃は、まだコーラとポテチの味がしたっけ。仕事から帰ると、夢中で遊んでたなあ。
そうそう、続編の発売日の翌日は、有休とったりなあ。
思い出しても仕方ないことだが、アリスは思った。そうしている間にも、ニッチとサッチはあらかた胃袋の中をさらい終わり、胃液をざばっと捨てた。
「臭くないかい?」
サッチに言われてアリスは首を振る。
「臭いけど、平気だ。それよりも二人の作業を見てるのが楽しい!」
(外見)美少女からキラキラした瞳を向けられて、ニッチとサッチは、弁当箱みたいに四角い顎をさすったり、鼻の下を掻いたり、それぞれが照れ隠しの動作をする。頬を赤らめながら。
「おっ!」
胃液を捨てていたニッチが、中からかちゃりと音がして、出てきた物を見つける。
それは、金で出来たネックレスだった。
ニッチが拾い上げてお日様に翳すと、きらりと先端のルビーが輝いた。
人でも食ったんじゃないと良いが。
微妙な表情でニッチとサッチは顔を見合わせる。
そんなことに考えの至らないアリスが、やっぱりキラキラの瞳をネックレスに向けた。
「これ、初めてのモンスター退治の戦利品じゃないか!」
「「おう、初めてか」」と、ニッチとサッチは顔を見合わせる。
「いるか?」
「うん!」
「誰かを食った溶け残りかもしれんぞ」
サッチの言葉を理解し、一瞬アリスは躊躇したが、それでも記念品として欲しかった。アリスの中に忍び寄る、女性化の波が、アクセサリーに対しての興味を強めていることに、アリスはまだ気が付いていない。
「それでも良い」
「分かった。じゃあちゃんと洗って、寺院で清めてもらったら、お前にやろう」
「やったあ!」
ぴょんと撥ねる元おっさんの美少女。元おっさんなどということを知らないニッチとサッチはその姿に思う。
可愛いなあ、もう。
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