第7話

「鈴香さん、なかなか人使い荒いですよね」

「ごめんごめん。でも本当に幸君にしか頼めなくて」

 鈴香を昨日の駅で拾い、二人は涼崎峠に向かっていた。

「涼崎峠に行ってみたいって、どんなところなんですか? そこ」

「うーんとね、行ってみたらのお楽しみ! でも本当に良い所だから、期待してくれて構わないよ」

 幸は欠伸混じりに「そうですか」とだけ返し、深くは追求せずに楽しみに待ってみることにした。助手席を横目で見てみると、幸に釣られてか、鈴香も小さな欠伸をしていた。時間も時間、眠くて当然だろう。幸は片手で右目を擦りながら、そんなことを考える。

 それから二人は他愛もない話に花を咲かせた。まだ静まり返ったままの街を二人の笑い声が彩っていく、そんな不思議な感覚を覚えた。

 良くも悪くも鈴香との会話は楽しい。一度握った免罪符、今更後悔しても仕方がなかった。

 

「もうすぐ着くよ」

 鈴香がそう言ったのは午前四時五十分、空がぼんやり赤紫色に染まってきた頃だった。夜明けは近かい。車内でもお互いの顔がハッキリと見える程明るくなっていた。

 鈴香は小まめにスマホで何かを確認しているようだった。

「そう言えば、今日の鈴香さんのその白い服、可愛いですね」

「えっ、あっ、ありがとう。幸君はお世辞が上手いんだから」

 幸としては何気ない気持ちで言ったつもりが、鈴香の照れた反応を見ると少し恥ずかしくなってきた。

「あ、あそこの少し開けている所。あそこが目的地! 幸君、ちょっとだけ急いでくれる? 時間ないかも」

 鈴香が指差している場所には、涼崎峠展望台と大きく書かれている看板とその側に駐車場が見えた。鈴香に言われた通り、強めにアクセルを踏み直す。

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