第6話

 目覚ましは着信音だった。スマホの画面には鈴香お姉さんと大きく表示されている。時刻は午前三時半、何かあったのだろうか。

「もしもし、幸君。変な時間にごめんね。寝てた?」

「寝てましたよ、そりゃ。鈴香さんからの電話で起きました。……それより何かあったんですか?」

「そうなの! 良くぞ聞いてくれたね。……何かこのやり取り懐かしいね」

「まあ、昨日もしましたしね。それで、やっぱり何かあったんですよね?」

「そうだった。私、どうしても行ってみたい所ができたんだけど、そこまで行く方法がなくて……」

「何でこの時間なんですか? また日が登ってから乗せてってくれる人を探せば――」

「今じゃなくちゃ行けないの。時間制限付き。と言うわけで幸君しか頼める人いないから、その……一緒に来て欲しい。お願い!」

 鈴香の「お願い!」を聞くと、鈴香がスマホの前で両手を合わせてお祈りをしているような姿が不思議と想像出来た。

 この頼みを受ければ、きっと幸の決意は更に弱まるだろう。出来れば、もう鈴香には会いたくなかった。今、幸と鈴香を繋いでるのはスマホを介した電話回線一本だけ、通話を切ればそれで終わり、断るのは簡単なはずだ。

「幸君! 一生のお願い。凄い良い所なの。絶対後悔させないから」

 鈴香に一生のお願いをされ、幸は言葉に詰まった。鈴香が嫌いなわけではない。むしろ魅力的な人だと思っている。だからこそ会ったら後が辛くなる、それが分かっているからこそ会いたくはなかった、のに――

「分かりましたよ。どこに向かえば良いですか?」

 免罪符を握ってしまった。

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