第3話
「幸君はもう社会人?」
「いえ、まだ大学二年生ですよ。今年で二十歳です」
「えっ、そうなの……てっきり社会人だと思ってたよ。車乗ってるし」
「免許は去年の夏に取りました。自粛ばっかで、やることもなかったので」
「あ、そうだ。私、マスクした方が良い?」
「構いませんよ、僕は気にしない派なんで。僕もしてないですしね」
「そっか。……変な話よね」
幸は鈴香が最後に小さく呟いたのを聞き逃さなかった。
「変な話、ですか?」
「えっ、うん、変な話。だって、もうコロナ禍終わったんだよ? それなのに何もなくてもマスクつけようなんて、今まで通りの生活に戻ると思って我慢してきたのに……」
「わ、分かりますよ、それ」
四年間続いた新型コロナウイルスによる自粛期間は、今日の日常に多かれ少なかれ爪痕を残していた。あの日々が完全に帰ってくることはもうきっとないのだろう。そう考えると、失った物の大きさは計り知れなかった。
「そう言えば、乗せてもらってあれだけど、どの辺までなら送ってってくれる? あまり無理もさせられないから。幸君、未成年だし」
先程では考えられないような謙虚な態度を見せた鈴香に幸は呆気に取られていた。
「えっと……まあ、どこまででも送りますよ。僕も行きたい場所があるわけじゃないんで。それに――」
加えて、自分が宛てもない旅に出ようと考えていることを鈴香に伝える。
「そっか……幸君、私に似てるね」
「そうですかね……鈴香さんは何している人なんですか?」
「私? 私はさっきも言ったけど、ヒッチハイクで旅してるよ」
「その話詳しく聞かせて下さいよ」
幸が詳細を問うと、鈴香は色々話してくれた。
「じゃあ今度は幸君の話聞かせてよ。幸君、旅って言ってたけど、大学は良いの? 休学?」
「まあ、そんな感じです。僕の話は良いですよ」
幸は、はぐらかすように話を終わらせた。
「いや、聞かせて欲しいな。折角、時間もあるんだし」
鈴香は両手を顔の前で合わせて「お願い」と幸に頼んだ。そこまでして幸の内情を知りたいのだろうか。幸は渋々口を開ける。
「僕この一ヶ月くらい大学行ってないんですよ。所謂、五月病ってやつですかね。ゴールデンウィーク明けてからもうずっとです」
「それはまたどうして?」
「あんだけ頑張って入った大学も、コロナでオンライン授業ばっかで、登校したのは二、三回。何の為に頑張ったのか分かんなくなっちゃって――」
幸は当たり障りのないようになるべく明るく話をした。話の最中、鈴香は優しく相槌を打ちながら、真剣そうな表情で聞いてくれた。
「なるほどね……やっぱ、幸君は私に似てる」
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