第56話 カラオケに行こう


 

 「カラオケ行く人ー!!」

 「はーい」

 「私も」


 中間テストの最終日、三科目が終わってクラスにはにぎやかな声が響いていた。

 結果がどうであれ誰もがテストが終わったという解放感に酔っている。


 「六花はどうする?」


 ぽんぽんっと肩を叩いて話しかけてきたのは、ななみんだ。


 「え、私?」


 どうしよっか……何にも考えてなかったなぁ……。

 それとなく目線を動かして達希君の姿を探す。

 達希君は璃奈ちゃんと蓮君と何やら話し込んでいる様子だ。

 

 「お、その顔は達希君しだいって書いてあるねー」


 察しのいい親友は、どうやら私の心を見透かしていたらしかった。


 「まだ、なんにも言ってないじゃん……」


 見透かされた恥ずかしさというよりも、ななみんへの隠し事をする難しさにため息がでた。


 「私、人を観察するのはとくいなんだよね」

 「うん、知ってる」


 自己紹介でななみんは、特技が人間観察だと言っていた。


 「じゃぁ、私はみんなとカラオケ行ってくるからねー。六花も青春してらっしゃい」


 ひらひらと手を振ってななみんは離れていった。

 そう簡単に、青春出来たら苦労はしないよ……。

 達希君は気付いているのか気付いていないのか、私の立てたフラグをことごとく折っていた。


 「もう……」


 先を考えれば長い道のりで思いやられる。

 心の中でちょっとだけ悪態をついて私は達希君のもとへ向かうことにした。


 「おつかれー」


 努めて明るく挨拶をする。


 「お、六花も来たか」


 蓮がそう言っていの一番に反応した。


 「お疲れ」

 「……お疲れ様、です」


 続いて達希君と璃奈ちゃん。

 達希君は平常運転だけど、璃奈ちゃんはちょっと違った。

 例えるなら、さっきまで尻尾を振って上機嫌だった犬が今は耳を垂れてしゅんとしている感じだ。

 あぁ……邪魔しちゃったか……でも達希君は璃奈ちゃんだけのものじゃないから。


 「なんか、ごめんね?」


 邪魔してくる嫌な人って思われるのも心外だから、こっそり一応謝っておく。


 「……大丈夫です」

 

 これは、許してもらえた?のかな……許されるという表現はちょっとおかしいかもしれないけど。


 「で、みんなは何の話してたの?」

 

 達希君の目を見つめて訊いた。

 

 「あぁ、この後この四人でどっか行こうぜって話だな」


 横合いから蓮が口を挟んだ。


 「ちょっと、蓮じゃなくて達希君に訊いてたんですけど?」


 こういうところで少しでも達希君にアピールしていかないと、ね?


 「はぁ?いいだろ誰が答えたって」

 「よくないですー!!」


 会話の流れ上些細な問題でも私にとっては大事なことだ。


 「はいはい、時は金なり。メンバー集まったから行くぞ」


 よくわからない理論を引っ張り出して、ぱんぱんっと手を叩くとめんどくさそうに蓮が言った。


 「って、なんで蓮が仕切るのよ?」


 なんか雑にあしらわれたし承服できませーん。

 そう言った蓮が達希君の方を見て一言―――――


 「この哀れな女になんか言ってやってくれ」


 哀れって何よって言い返したくなったけどやめた。

 これ以上は、売り言葉に買い言葉。

 それに達希君がしゃべろうとしているのだ。


 「そういうことらしいんだ……六花…の考えを聞かないうちに決めちゃってごめんね」


 すまなそうに言う達希君。

 達希君にそう言われちゃったら従う他、無いじゃん。


 「なるほどね、ありがと」


 蓮に一々噛みつくのも何だか子供っぽく見られそうでよくない。

 この辺で折れるかぁ……。

 そうして、私は四人でカラオケに行くことになった。

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