第55話 誤解と爆弾

 私とななみんが飛び入りする形で始まった勉強会は、テストが近いのもあってか、黙々と進んでいった。

 そろそろ一回休憩を挟みたいなって私が思ったタイミングで察したのか、ななみんが大きく伸びをして


 「そろそろ一旦休憩に入らない?」


 と提案して一旦休憩することにした。

 おしゃべりをするといってもここは図書室、当然ながら話声は小声だ。

 趣味とか進路とか当たり障りもない話をひとしきりした後、ななみんはわざとらしく咳払いをして話を切り出した。


 「でさ、つかぬ事を訊くけど達希君」

 「というと?」


 腹に一物ありといったような表情のななみんが、そこにはいた。

 彼女の表情は何かを企んでいるときのものだった。


 「ゴールデンウィーク前の話なんだけどね?」

 「うん」


 思い当たる節は無いといった様子で達希君は続きを促した。


 「あの女の子とは、どうなったの?」


 ななみんはとんでもない爆弾を投下していった。

 璃奈ちゃんのさっきまで眠そうだった目が思いっきり開かれた。

 

 「え、何……それ、私も初耳なんだけど?」


 驚きのあまり、思ったことが口に出てしまった。

 達希君は、あちゃーといったような顔をする。


 「……どういう事……?」


 璃奈ちゃんは、達希君の腕を掴んで揺すりながら問い詰める。

 胸に腕が当たって形を変えながら揺れていた。

 璃奈ちゃん、それ以上は辞めようね?

 ヘイトゲージがいっぱいになっちゃうからね?


 「わーお、璃奈ちゃん大胆……」


 場の空気感をおかしくした張本人が、そんな璃奈ちゃんを見つめてニヤニヤしていた。

 確かに、いつもなら璃奈ちゃんは、あそこまで大胆にはならないよね。


 「いや、それは誤解だって」


 困ったなぁと頬を掻きつつ達希君は、ため息をした。


 「……そういうのが、夫婦がうまくいかなくなる理由だと思うんです」


 夫婦を例えに出したことにびっくりしたが、そこはスルーして達希君の言葉に耳を傾ける。


 「それとも、やっぱり……」


 璃奈ちゃんが弱々しい声音で言った言葉を私の耳は聞き逃さなかった。


 「やっぱりってどういう事!?」


 反射的に立ち上がってそう訊き返してしまった。

 カウンターにいる図書委員が顔をしかめる。

 他のテーブルに座っていた人達の視線を集めていた。

 ごめんなさい、と頭を下げてから私は椅子に腰かけた。


 「それ、叶夢かなめのことだと思うよ」


 達希君がそう言ったのを聞いて私は得心がいった。

 璃奈ちゃんも落ち着きを取り戻したのか達希君の方に詰め寄っていた体は元通り椅子の上にあった。


 「え?やっぱりニューフェイス?」


 事情を知らないななみんだけが横で盛り上がっている。


 「えっとななみん、叶夢ちゃんっていうのはね――――――」

 「達希君の妹」


 私の言葉が答えを言うよりも早く璃奈ちゃんが答えた。

 普段なら質問に答えるだけでも時間のかかりそうな璃奈ちゃんが間を置かずに即答したのだ。

 私としてはなんだかイニシアティブ握られたような気分でちょっと引っかかる。

 そして私を見つめる璃奈ちゃんと目が合った。

 どういうことなの?その意味ありげな視線は……。


 「え、達希君の妹ちゃんかぁーめっちゃ可愛かったね」

 「そう伝えておこうか?」

 「それもいいね。これを機会にお友達になれたらいろいろ楽しめそうだし」


 私と璃奈ちゃんが微妙な空気感になっているのを傍目に、ななみんと達希君は盛り上がっている。

 

 「じゃぁ、そろそろ休憩はお終いっ!!勉強に戻ろう」


 私と璃奈ちゃんの方を見てななみんはそう言った。

 それで璃奈ちゃんとの間に流れていた何とも言えない空気感は解消されたんだけど、その後璃奈ちゃんの視線の意味が気になってあんまり勉強の方は、はかどらなかった。

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