第57話 カラオケに行こう2

 「うわー、達希君うまいね!!」


 トップバッターの蓮君が撃沈した後、二番手で歌った達希君の歌は音程がしっかりしていて上手だった。

 それを斉川さんがパチパチと手を叩いて誉めそやした。

 私と斉川さんの違いってこういうところなんだなって思った。

 私は、不登校になってしまうくらいに人と話すことが苦手だった。

 そんなことはできるはずもなくただ眺めるだけになってしまう。


 「じゃぁ、次は璃奈ちゃんだな」


 水野君がそう言うと二本あるマイクのうち一本をこちらに差し出してくる。


 「無理です……」


 そんなにレパートリーあるわけじゃないし流行りの曲とか知らないし歌ったら恥をかくだけで終わりそうだ。


 「まぁ、そう言わずに」


 それでも水野君はマイクを持つ手を引っ込めてくれない。


 「なんなら、私も一緒に歌おうか?」


 斉川さんも、水野君に同調してそんなことを言う。

 達希君……助けて。

 すがるように達希君を見る。


 「うん、歌ったらきっと楽しいよ」


 達希君は二人を止めてくれはしなかった。

 励ましは期待してないんだよ……。

 

 「ほらほら、達希君もそう言ってるし、ね?」


 私の気持ちを知ってか知らずか隣に座っている斉川さんは、ぽんぽんと私の肩を叩く。

 歌うしかないのかな……。

 差し出されたマイクをおずおずと受け取る。

 三人から何を歌うのかなって感じの目で見られて人前でなんか歌ったことの無い私の緊張はいやおうにも高まる。

 

 「ほら、これ使って」


 斉川さんから曲を入力する機械を受け取る。


 「どんな声で歌うか楽しみだな」

 「蓮、やめなよ。璃奈ちゃん緊張しちゃうから、プレッシャーかけるのダメ絶対」


 水野君と斉川さんのやり取りは聞き流して曲を入力する。

 歌う曲は、残念ながらみんなの期待にえるような曲じゃない。

 周りの空気も読まず知らない曲を歌うような人だって思われたら、もう私には歌ってなんて言わないだろうな……。

 でも、それならそれでいいかもしれない、なんて考えてるうちに心の準備をする間もなく、イントロが流れ出す。

 選んだのはアニソン。

 不登校だった間、私は学校に行かないから時間はいくらでもあった。

 その時間を使って見ていたアニメ作品のエンディングだ。

 激しい力の湧いてくるようなアニソンじゃなくて、どちらかって言うとバラード調に近いしっとりとした曲を選んだ。

 かなり好きな曲で出不精な私を外に妹の智菜が連れ出してくれるときに行くカラオケで、行くたびに歌っている曲だ。

 ひたすら歌詞の映し出されるテレビ画面を見て歌う。

 どんな風にどんな顔で私の歌を聴いてるのか気になったけどそれを確認する勇気は無い。

 だって、つまらなそうな顔で聴かれてたりしたら怖いから。

 メロディーに従って色が変わっていく文字を三分間近く追いかけて私はマイクを置いた。

 恐る恐る三人の方を振り向く。

 

 「璃奈ちゃん、めっちゃ上手いじゃん!!」

 「おぉ、知らない曲だったけど雰囲気があったわ」


 斉川さんと水野君は、そんなことを言った。

 意外と高評価だった……のかな?

 肝心の達希君の反応はというと


 「これ、ちょっとだけ聴いたことあったけど、すごい上手だね。芹沢さんの声に合ってるよ」


 手を叩きながら褒めてくれた。

 なんだか それを見ただけで私は満たされるのを感じた。

 一生懸命、歌って良かったって。


 「ねぇ蓮、璃奈ちゃんの声だとこの曲とか合うんじゃない?」

 「お、確かに」


 斉川さんと水野君は、何やら曲を入力していく。


 「璃奈ちゃん、これ歌ってみて?」


 流れてきたのは、あんまり知らない曲だ。


 「え……知らないです……」


 素直にそう言うと


 「じゃぁ、今から練習だね!!」

 「おう、ガイドボーカル入ってるから歌詞を見て歌ってみてくれ」


 そんな感じで、その日のカラオケは私が何故か練習する時間となって時間いっぱいまで歌うことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不登校女子を学校復帰させたらベタ惚れさた件 ふぃるめる @aterie3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ