第53話 幼馴染は覗き見する


 「達希君、今日はちょっと寄らなきゃいけないところがあって帰りはごめん」

 「あ、うん。わかった」


 放課後、私は達希君に一緒に帰れないって伝えた。

 真顔でただ、了解という内容の返事をもらう。

 もう少し何かリアクションしてくれてもいいのになぁ……とモヤモヤしつつでもこれからもっとモヤモヤすることになるのだと思った。

 

 「六花、バレちゃだめだからね?」


 ななみんが帰り際に私の肩を小突いてそう言った。


 「任せなさいって」


 一緒に帰れないって言っておいて他の女と一緒にいる達希君たちの様子を監視してましたなんてバレたらそれこそ恥か死案件だ。


 「頼りにならないなぁ……」


 と言い残してななみんは教室を出ていった。


 「今日も……その、お願いしますね?」


 教室に残ったのが達希君と璃奈ちゃんだけになると自習道具を腕に抱きながら上目遣いに璃奈ちゃんは言った。

 上目遣いといっても慎重さがあるから必然的にそうなっちゃううんだけど、見ているこっちとしては意図的にしてるって思えるしぐざだった。

 でも私もああやって上目遣いしてるんだよね……傍から見るとこんな感じなのね……。

 二人はそのまま、図書室へと向かう。


 「家とかじゃなくてよかった……」


 璃奈ちゃんの家とかで勉強するとか言われたら私の監視の外になっちゃうもん。

 何となくっていうか絶対にそれは嫌だ。

 でも、それを止めたりしたら束縛するような女って思われちゃうかもだし……。

 図書室に向かうまでの間、コソコソと二人をつける私が変に見えたのか通りかかる顔も名前も知らない人に変な目で見られた。

 普段なら気にするけど、今はそんなことより二人の動向の方が優先度が高いから気にしている場合じゃない。

 二人は、図書室に入ると昨日と同じ席に着いた。

 私は、その席が良く見える本棚の傍に行き本を読むふりをしながら様子を見ることにした。

 案外、普通に勉強してるのね……。

 もう少し、イチャイチャすると思ったら全然そんなことは無くて二人は真面目に勉強をしている。

 気になるのは対面じゃなくて隣り合わせにすわっていることぐらい。

 そのまま十分、二十分と時間が過ぎていく。

 これ以上は時間の無駄ね……。

 そう思って読むわけでもないのに開いて手に持っていた本を閉じもとにあった場所に戻す。

 と、そのとき―――――――璃奈ちゃんの肘が消しゴムに当たって床に落ちたのを私は見逃さなかった。

 拾おうとして璃奈ちゃんが手を伸ばす。

 するとそこに


 「あ、拾うよ」


 達希君も手を伸ばして二人の手が軽く当たった。


 「あ、……え、えと…ごめんなさい」

 

 二人の間に流れる神妙な空気。

 主に発しているのは璃奈ちゃんだ。


 「謝ることじゃないよ」


 達希君が消しゴムを拾って璃奈ちゃんに渡す。

 何と古典的な手口……。

 消しゴムを落として拾おうとした璃奈さんが手を伸ばすまでにはわずかな間があった。

 それは、達希君に拾おうとする動作を起こさせるには十分な時間だった。

 時間をかけていたのは不自然に思われないよう少しづつ消しゴムを使う度に落ちやすいほうへと寄せていくための準備期間だったからなのかな?


 「以外に策士……かもしれないね」


 やはりこのまま静観していれば、二人の仲が進展してしまう可能性も十分に考えられる。

 何らかのアクションを起こさなくては……。

 そう考えた私は、これ以上もどかしい光景を見続ける気にはなれなかったのもあってそのまま図書室を後にした。

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