第52話 ななみん


 「そんな怖い顔しちゃって」


 結愛が私の頬をつっつく。

 

 「ななみんは、傍観者だから気楽でいいよね」

 「まぁ、確かにぽっと出の子に奪われちゃいそうな状況だったら私も六花みたいになっちゃうかもね」


 呑気に、ななみんは言った。

 彼女は、新しくできた気の置ける友人の七海結愛。

 ちなみに今さっき、昨日の図書館での達希君と璃奈ちゃんとの密会―――――じゃなかった、勉強会の様子を報告してもらっていたところだ。


 「はぁ……」


 浮かないため息をつく。

 璃奈ちゃんのことは嫌いじゃない。

 学級委員としても友人としても、サポートしてあげたいという思いはある。

 いわゆる公私ともにっていうやつなのかな。

 でもそれと恋とはべつだ。

 

 「はぁ……」


 また、大きなため息が漏れる。

 

 「そういえばさ、最近読んだ漫画なんだけどね」


 ななみんが唐突に話を変えてきた。


 「それがどうしたの?」


 ちょっと投げやりにも聞こえるような訊き方をすると、くすりとななみんは笑って


 「幼馴染が負けルートだったの」


 何を言うかと思えば、追い打ちをかけてきた。


 「ちょ、まだ負けてるわけじゃないしっ何ならリードあるしー!!」


 自分でも焦ってるなって思いつつ言葉を返すと


 「必死だね」


 と言われた。

 そうだよ、かなり必死だよ。

 まだ、焦る段階じゃないって思いたいけど達希君と璃奈ちゃんの仲の進展は急速って言ってもいいかもしれない。


 「泣きたくなったら私の胸くらいは貸すから、いつでも泣きなよ」


 ななみんが笑いをこらえながら腕を広げて、おいでとでも言いそうなポーズをとった。

 

 「うぅ……」


 ちょっとだけ嫌がらせで、その胸をわしづかみにした。


 「なっ!?」


 悔しいけどそこは、私のよりも柔らかくて大きかった。


 「ふんっ、貸してくれるって言ったでしょ?だから好きにさせてもらうね」


 しばらくそれをもて遊ぶ。


 「お、横暴……」


 そんなことをしてると、男子たちが騒ぎ出した。


 「見ろよ、あそこの絡み……」

 「うおっ!?ご飯三杯行けそうな光景だな」

 「素晴らしい……」

 「百合はいいゾ」


 視線が集まっているのをななみんも感じたのか


 「お願い……そろそろやめて? からかって悪かったからぁ」


 と言って降参の意思を示した。


 「と、とりあえず今日のところは、これで許してあげるね」


 私も渡り船とばかりに、その言葉に乗ってななみんから距離をとった。

 残念そうな顔をする男子たちをとりあえず解散させる。


 「ほら、見世物じゃないんだから散る、散る!!」


 すると不満を漏らしつつ男子たちは、しぶしぶといった様子で席に戻っていった。

 でもななみんのおかげで少し気が晴れた気がした。

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