第51話 図書室で
「あの……達希君……」
SHR《ショートホームルーム》が終わった教室は、人もまばらで残っているクラスメイトと言えば仲良し同士で駄弁っている人たちくらいだ。
六花は今日は他に付き合いがあるからと言って他の女子たちと教室を出ていった。
目の前には所在なさげに周囲を見回しながら声をかけてくる璃奈さん。
「どうしたの?」
「えっと……そろそろテストも近いじゃないですか?」
すでにテストまでは二週間を切っている。
「そうだね」
「だから、えっと……勉強を教えてもらいたくて……」
璃奈さんは、四月の最初を欠席して授業を受けていない。
単位のことを考えれば、テストで高得点をとる必要があった。
「いいよ」
だから二つ返事で引き受ける。
「……やったっ……」
璃奈さんは、小声で何かをつぶやきながら小さくガッツポーズをとる。
「で、場所は何処にする?」
教室でもいいし、静かな場所がいいのなら図書室でもいい。
一応、僕の家っていう案もあるけど、いまいち他の女子を家にあげるっていうことには若干の抵抗がある。
といってもキャンプの打ち合わせみたいなときに、家にあげたんだけどね。
「できれば、達希君の家がいいです……」
「わかった、ちょっと電話かけて確認してみるね」
確か、今日は
電話を掛けると二回ほどのコール音の後に叶夢が出た。
『兄さん、どうしたの?』
電話の向こう側に他の人の声が聞こえた。
『今日、友達と家で勉強しようと思ったんだけど……今、家に誰かいるの?』
『えっと智菜さんが家に来て一緒に勉強してるんだ』
そっか、中学も同じくらいにテストがあるのか。
『えっと達希先輩?今、お邪魔してます』
スマホの向こう側から聞こえる声がガラッと変わった。
智菜ちゃんが、叶夢を誘ってくれたのか。
叶夢は、友達作りに悩んでいたから僕以外の違う誰かと一緒に何かをしていることが分かって少しホッとする。
『えっと、僕らがそっちに行ったら邪魔になるかな?』
『僕らっていうことは誰かと一緒ってことですか?』
『芹沢さんと一緒なんだよ』
そう伝えると智菜ちゃんは、少し黙った。
どんな顔で何を考えているのかは、画面の向こうだからわからない。
『そうですね、先輩たちが集中したいのなら、他の場所でしてもらった方がいいかもしれません』
わかった、と伝えて通話を切った。
「僕の家は、無理みたい。図書室でいいかな?」
璃奈さんは何故か残念そうな顔をしたが、うんうんと頷いた。
図書室に入ると人は、まばらだった。
僕ら二人以外に図書委員の子を除いて三人といったところだ。
「あ、鮎川君、こんにちは」
挨拶してきたのは、七海さんだ。
こないだ駅ビルで見たときとは、だいぶ装いが違うせいか同一人物とは思えない。
「こんにちは」
「今、図書委員が似合わないって思った?」
眼鏡を外して七海さんが訊いてきた。
眼鏡をかけているのといないのとでは、こんなにもかわるのかと思った。
「いや、そういうわけじゃなくて」
と言ったところで後ろに袖を引かれる。
振り向くと、ちょっとむくれ顔になった璃奈さんがいた。
「じゃなくて?って璃奈ちゃんも来てたのね」
僕の言葉尻を拾って何かを言いかけたところで七海さんは璃奈さんに気付いた。
「……はい」
何かを察したように七海さんはニヤッと笑って
「六花もうかうかしてられないわね」
と言った。どういう意味なんだろう。
「何の話?」
そう訊いてみたけど、七海さんは首を横に振って
「何でもないよ、こっちの話だから。どうぞ、ごっゆくりー」
と言ってカウンターに置かれていた本を数冊抱えると本棚の方へ消えていった。
ちょんちょんと袖が引かれたので璃奈さんの方を見ると、ぷいっと目をそらされた。
「どうしたの?」
「知らないです」
何を言いたいのか、よくわからなかったので座って勉強を始めたけど、むくれ顔のまま、しばらく口をきいてくれなかった。
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