第54話 我慢できない幼馴染



 「で、居てもたってもいられなくなって参加しちゃったと……」


 ななみんは、あきれ顔で言った。

 

 「三日間もそんなの見てたらそうなっちゃうよ」


 結局、三日目に私は達希君と璃奈ちゃんのところにお邪魔してしまったのだ。

 達希君は笑顔だったけどちょっと璃奈ちゃんはむくれ顔だった。


 「なら、私は六花が激推しする達希君を観察してみようかな」

 「え、あ、とっちゃだめだからね?」


 ななみんは、女子の私から見ても魅力的に見えるしいろいろ敏い。

 よく誰に告白されたとかって噂は耳にするし一緒にいるときに他のクラスの男子がやってきて、ちょっと席外してくれないかなって言われるようなこともあった。

 私も告白されることは、偶にあるんだけどななみんからしたら私なんて微々たるものだ。

 できれば恋愛で敵に回したくない女子の一人だ。


 「私が達希君のこと好きになったら敵わないとかって考えてたでしょ?」


 私の心を見透かしたように、ななみんは言った。


 「むぅー」


 敏いし察しもいい。


 「安心しなって、友達の好きな人を盗るほど、ダメ人間じゃないから」


 ニコッと人たらしのする笑顔を浮かべると、その言葉を信じずにはいられない。


 「本当に本当に本当?」

 

 そう訊き返すと、ちょっと面倒くさそうな顔をして


 「本当に本当に本当だよ」


 ってため息交じりにななみんは返した。


 ◇◆◇◆


 「あ、いたいた」


 放課後、ななみんと私は図書室に来ていた。


 「あの二人、対面で座らないんだね」


 ななみんはしげしげと二人の様子を観察していた。

 

 「そうなんだよー、あんな近距離でイチャイチャと……羨まけしからんっ」

 「いや六花、本音本音……」


 気づけば本音が駄々洩れだったらしい。


 「あの……すみません」


 そんな感じで図書室の扉の前で中を覗き込んでたから他の人の邪魔になっていたらしい。

 申し訳なさげな顔をした女の子が私たちの後ろに立っていた。


 「あ、ごめんね」

 

 慌てて道を譲ると何故かその女の子は、ななみんの方を見て目をときめかせていた。

 そう、ななみんは女子からの人気も高いのだ。


 「あの子の目、マジだったね」

 「あ、やっぱり?」


 本人もそのことについてはある程度自覚しているみたいだ。


 「女の子まで夢中にさせちゃうこの魅力、あぁー怖いわー」

 「はいはい、怖い、怖い。ここにいたら邪魔になるからさっさと中に入るよ」


 思ってもなさそうなことを言って笑いをとりに来たななみんを適当にあしらって手を引っ張て図書室へと入る。

 二人はまだ気づいていないらしかった。


 「よし、二人の向かいに座ろっか」


 いつの間にか通常運転に戻っていたのかななみんがスタスタと前を歩いて行く。

 私は、やっぱり邪魔しちゃうのは?とか今さら思い始めて、ななみんのようにズカズカとは行けない。

 ああいうところが女子からも好かれる理由なんだろうねって思った。


 「こんにちはー。いや二人ともテスト勉強かな?」


 ななみんは、二人のところへ行くと軽く挨拶した。


 「うん、そんなところだよ。って今日はコンタクトなんだね?」

 「あ、わかる?」


 あれ、達希君とななみんって交流あったの?

 教室じゃあんまり話しているところを見たことがない二人だ。


 「璃奈ちゃんも、やほっ」


 そのままのノリでななみんは璃奈ちゃんにも挨拶する。


 「……こんにちは」


 まだ慣れないのか、俯きがちに璃奈ちゃんは挨拶を返した。

 

 「お、挨拶返してもらえた。この機会に改めて自己紹介しとこ。七海結愛って言います。あそこにいるヘタレ女子の友人だよ。なんでも困ったことあったら頼ってね」


 ななみんは、私のことを指さしてヘタレ女子って言った。

 地味にショック……。


 「純情な女子に対してヘタレ女子とは失礼しちゃうね」


 いつまでも後ろで立っているわけにもいかず、ななみんの作ってくれたこのタイミングに私も話の輪に加わる。


 「ななみん、ありがと」

 「いいってことよ」


 むふふん、と胸を張ってななみんは得意そうだ。


 「で、達希君と璃奈ちゃん、私たちも勉強会に混ぜてくれないかな?」

 

 こういう申し出って、なかなか断れないから、ななみんはグイグイと本題に突入した。

 

 「僕は、いいけど、芹沢さんは?」


 達希君が心配そうに璃奈ちゃんの判断を訊く。

 

 「…大丈夫です……」


 璃奈ちゃんは短い逡巡の後、了承してくれた。

 でも私は、一瞬だけ璃奈ちゃんの顔に影が差したのを見逃さなかった。

 やっぱり邪魔だったかな……と少しだけ罪悪感を抱いた。

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