第41話 退けない戦い
「やった、一番乗りっ!!」
適度に間隔をあけて、それぞれ思い思いの場所を選んで始まった勝負は、
「生徒会の子ってあんなところまで能力高いのかな……?」
「一番に釣って、いい所見せようと思ったのに……」
「……ぐぬぬ……」
智菜ちゃん、璃奈さん、六花がそれぞれ違った反応を見せる。
そして目線を飛ばし合い火花を散らした。
「ねぇ、パパ、あそこの人たち怖い……」
「そ、そうだねぇ……邪魔しないように隅の方で釣ろうか……」
他のキャンプの人たちにも避けられてる。
なんだか罪悪感が……。
「何だか、すみません」
一応謝っておくと
「だ、大丈夫ですよ……」
と言って足早に去っていく始末。
「ねぇ、もうちょっと柔和な雰囲気でできないかな?」
どうみてもキャンプで釣りをしている雰囲気じゃなかった。
「退けない戦いがあるんですよ、先輩」
近くにいた智菜ちゃんが、冷静に仕掛けに付いてる目印を見据えながら言った。
「やった、二匹目!!」
叶夢が、始まって三分で早くも二匹目を釣った。
叶夢は、手のひらを当てて大凡のサイズを測るとキープサイズと判断したのか
そして再び仕掛けを川面へと送り込んだ。
「随分と調子がいいみたいだねー」
「上手だね、叶夢ちゃん」
「ぬぅ……」
叶夢は、自分に注がれている三人の視線に気づいたのか凍り付いたように動きを止めた。
「ど、どうしたんですか……?みんな揃って、怖い顔してますよ……」
仕掛けの長さの限界に達した仕掛けが流れに逆らって水面を跳ねていて回収しなければならないのに、叶夢は、それをしない。
「どうしてかなぁ」
「ふふふ」
「……」
周囲は、晴れていて心地よい風が吹いているはずなのに、そこだけが戦場といった雰囲気になっている。
「あ、来たっ」
「わ、私にも」
先に智菜ちゃんの竿に反応があってそれを追うように璃奈さんの竿もクンクンと先端が曲がった。
「二匹ともキープサイズですね、姉さん」
「良かった」
芹沢さん姉妹は、ハイタッチをしている。
あたりに漂う剣呑な雰囲気は一か所を覗いて払しょくされた。
「なっ!? 先を越された……未経験者に私が劣っている……?」
何度も何度も仕掛けを放り込むが六花の竿には反応がない。
「斉川さん、ちょっと場所を変えて川底の方を狙ってみて」
ちょっと可哀想だったのでアドバイスをする。
「……う、うん」
数メートル横に移動して釣り座を構えなおした。
そして仕掛けをポイントへ送り込む。
すると竿が小さく動いて
「来たっ……でも小さい」
人差し指の長さほどの大きさのヤマメが釣れた。
「やっぱり、私ダメなのかな……?」
目に見えて気落ちする六花の方に手を置いた。
その間にも、他の三人は何匹かを釣っている。
「そんなことないよ。でも聞いて。僕らの思ってることって魚に伝わると思うんだ。何が何でも釣らなきゃって思ってるから多分、魚に殺気というか焦燥感みたいなのが伝わってるんだよ。他の三人には焦りとかそういうのが無いから釣れてるんだ。それが三人と斉川さんとの違い」
そう言うと、わかったのか頷き返す六花。
軽く深呼吸をして針に餌をつけると、今まで六花から漂っていた雰囲気がガラッと変わった。
そして仕掛けを流れの中へと投入した。
しばらく流れて、水中に見える少し大きめの岩の傍を通ったとき
「来たっ!!」
今日一番、大きく竿が曲がった。
「めっちゃ突っ込むっ」
魚は岩に引き返し逃れようとするのか、なかなか姿を見せない。
「大丈夫、そのまま少しずつ竿を立てて」
「わかった」
魚は空気を吸わせると弱るから、休憩する暇を与えず竿を立てて浮かせるのが一番だ。
「わ、大きい」
やがて魚は、川面に姿を見せた。
「今までの魚となんか違う」
釣り上げた魚を手元に持ってくると六花はそう言ってまじまじと観察した。
体色も頭の形もヤマメとは違う。
「イワナだよ」
イワナは、それなりにレアリティの高い魚だ。
「それってどうなの?」
「渓魚の中じゃ、人気が高い魚かな」
そう伝えると六花は目を輝かせて
「達希君のおかげだよ、ありがとう」
と言って微笑んだ。
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