第40話 賞品は鮎川くんで
六花からのメッセージに書かれていた場所に向かうとみんなが、座って空を見上げていた。
「お、お母さんから変なことを言われなかった?」
ちょっと慌てた様子で六花が、そう尋ねてくる。
いろいろ聞かれはしたが、六花の質問に対して言われたよと答えれば、それはそれでさらに慌てさせてしまうだろう。
「特に言われなかったよ」
そう答えると少しいぶかしむような表情を見せたが。
「本当に?」
「本当だよ」
上目遣いで下から覗いてくる。
「本当に本当?」
「本当だよ」
「ふーん、そういうことにしといてあげる」
いぶかしむような表情は消え元通りの笑顔に戻った。
「みんなで釣りでもしようかなって話になっててね」
六花の後に続いて来ると木造の建屋があって釣り具を貸しているようだった。
ほかにもちょっとしたアウトドアグッズや地元の食材なんかも売っているらしかった。
お金を払って人数分の竿を借りてきた。
「釣りですかぁ……初めてです」
智菜ちゃんが初めて触る釣り竿に目を輝かせている。
「でも、この仕掛け?みたいなものにトラブルがあったらどうするんですか?」
一応仕掛けが切れたりしてしまったときのために新しい仕掛けも借りてきている。
「そしたら一緒にもらった紙に仕掛けのつけ方、書いてあるからそれに倣ってつければ大丈夫だよ」
借りた竿は延べ竿でリールはついていない。
川で釣りをするなら一般的な仕掛けに竿だ。
僕も、年に何度か程度だけど、父と釣りに行っていたからわからないというほどではない。
「リールもないし手元の感覚だけ注意してれば大丈夫」
「詳しいですね、先輩」
智菜ちゃんが紙を見ながらそう言った。
一応、キャンプ場周辺の区域は、その施設の管理下らしくヤマメの摑み取り体験みたいなこともできるらしかった。
「少し流れの緩くなってるところや岩の際を狙ってくと釣れるかも」
天然の地形なのか人工的なものなのかはよくわからなかったが適度な大きさの岩や掘れた部分が何か所もあった。
そういったところに仕掛けを投入していく。
六花も、少し離れたところに釣り座を構えて仕掛けを投入していた。
握った竿からグングンと振動が伝わってくる。
手首のスナップを効かせて軽く合わせると若干の重さを感じた。
竿をたてて手元に寄せて川面から抜きあげると18㎝くらいのヤマメが付いていた。
「うわ~早いですね」
感心したように智菜ちゃんが見入っている。
「これ、十分なサイズあるけどどうしようか?」
食べるならキープするしそうでないならリリースだ。
「せっかくだし食べようよ」
「達希君、私も釣れたよっ」
その様子を見ていたのか六花が自分の仕掛けに付いてきた小さなヤマメをこちらに
「小っちゃくて可愛いです」
璃奈さんは、魚籠の中の魚と見比べる。
「もっと大きなの釣っちゃうもんねっ」
そう言われて六花が再び仕掛けを投入すると竿先がクンクンと動きさっきよりも小さなヤマメが釣れた。
「これは何かの間違いで次こそ本命がっ」
六花は何回か仕掛けを投入するが今度は、何も釣れなかった。
こういうところにいる魚は大きいのから順番に釣れる傾向があるから多分、もうそこには魚がいないのだろう。
「あ、何が足りないかわかった」
何かを思いついたのか六花が竿をもってこちらへと近づいてきた。
「何か、やる気になる物を掛けよう。例えば……ある一定時間、達希君を好きにすることができるとか」
少し頬を赤らめながら飛んでもないことを六花は言った。
「僕の、拒否権は?」
「ごめん、ない」
僕の意見は、あっさり一蹴されてしまう。
「その勝負、面白そうですね」
智菜ちゃんが手を挙げて受けたたつという意思表示をする。
「智菜がやるなら……わ、私もやりますっ」
璃奈さんもちょっと恥ずかし気に手を挙げた。
「兄さんは、私が守りますから」
ため息混じりに叶夢もその勝負を受けた。
「役者がそろえば舞台が動く。負けられないよっ」
僕の意見を無視した勝負の幕がその一言で切って落とされた。
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