第35話 譲り合い
「兄さん、お客様用のコップが足りません」
「こっちは気にしなくてもいいよ?」
今日は六花と芹沢さん姉妹が来ていた。
「何も、お出ししないのは申し訳ないです」
そう言って叶夢は、どこに置いてあったのかお菓子を数種類準備し、それからコップに氷を入れてジュースを注いでいる。
「コップ足りないので兄さんのを使っていいですか?」
「いいよ」
二人暮らしのこの家に、三人も来ることは滅多になくて来客用のコップは二つしかなかった。
「私がそのコップ使うよ。達希君の家に人集めちゃったの私だし、ね?」
ニコッと笑って六花がそのコップを持って行く。
それを何故か璃奈さんは、残念そうに見ていた。
ちなみに僕の家になった理由は
六花―――――自分の家が散らかっているから
璃奈さん―――――いつも自宅に来てもらってばっかりだから
ということらしい。
六花はいまだに、自分の部屋が璃奈さんの部屋より散らかっていたことを気にしているらしかった。
「さすがにリビングもちょっと狭いかも」
リビングに円卓を出して座布団を敷いたのだが、そこに五人も集まると狭く感じられた。
「皆さんは、先に座っててください」
叶夢が、お菓子の皿を出しながらそう言ったが誰も座る気配を見せない。
「どうしたんですか?」
気にかける叶夢を六花が手招きして、先に座らせた。
「叶夢ちゃんは先に座ってて。何も問題はないよ、でもね譲れない戦いがあるの」
六花と璃奈さんの間には、ちょっとした緊迫感みたいなものが漂っていた。
それを見て察したのか
「そういうことですか」
と、叶夢は大人しく座り一人先にお菓子を食べ始めた。
六花が璃奈さんに向き直り
「璃奈ちゃんも先に座っていいよ?」
と言って一歩引いて席を譲るそぶりを見せた。
それに対して璃奈も同じく一歩引いた。
「……
互いに愛想笑いを浮かべて座るところは人数分あるのになぜか譲り合っていた。
「姉さん頑張ってっ!!」
どういうわけか璃奈さんを応援する智菜ちゃん。
わけがわからないので取り合えず座って様子を見守ることにした。
叶夢と智菜の間が空いていたのでそこに座る。
すると六花と璃奈さんの間の空気が弛緩した。
「あぁ~っ」
「……はぁ……」
ひどく残念そうに二人は、こちらを見ていた。
「あの二人、どうしたの?」
そう訊くと
「……独占欲というかアピールというか……何というか……」
「姉さん、気付いてもらえてないですよ……まだ先は長いですが、引き続き頑張りましょう」
叶夢と智菜は、ため息交じりにそう言った。
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