第36話 計画的犯行


 「午後、またここに集合で」


 ひと悶着はあったものの、大凡の予定が決まって午後は買い出しに行くことになった。

 キャンプ用品は、僕の家にも未使用のものがあるし斉川さんの家にもあるので問題はないらしい。

 買い出しで買うものは、すでに六花がリストアップしてくれてあって食材から飲料、必要なら衣服を買うことになっている。


 「お邪魔しました」

 「先輩、またあとで来ます」

 「……またあとで」


 三者三様に挨拶をして六花、智菜ちゃん、璃奈さんは帰っていった。

 ご飯を作ってもよかったが、それは申し訳ないと六花が辞退して流れで三人とも帰宅して昼食を済ませて一時半にここに再集合するということになった。


 「兄さん、片付け手伝ってください」


 叶夢かなめは、円卓の上のお菓子や取り皿、コップなんかをトレーに載せて台所に運んでいた。


 「あぁ、うん。任せちゃってごめん」

 

 叶夢がやってきて何も乗っていないトレーを突きだしてきたのでそれを受取ろうとするとそのトレーが引っ込められ空振りした。

 叶夢の意図が分からなくて、どういうこと?と叶夢を見ると目が合った。


 「兄さん、一つ忘れてるんじゃないですか?」


 トレーを口元に当てて叶夢が訊いてきた。


 「何を?」


 思い当たる節が無いのでそう訊き返すと、叶夢は少し赤面して


 「男が兄さんしかいないことですよっ」


 と言った。

 言われてみれば、確かに男の子は僕一人だけだった。


 「そうだね……」


 蓮でも誘えばよかったかなと今さらながらに思ったが六花の言葉を思い出した。

 私の家の車、六人までしか乗れないから、と。


 「蓮さんでも今から誘いませんか?」


 蓮は、僕の家に来ることもそれなりにあったから、叶夢も蓮のことはよく知っている。

 それに叶夢は、蓮によく遊んでもらっていた。


 「それも考えたんだけどさ六花の家の車、六人乗りらしくて……」


 さっき思い出したことを言った。

 すると叶夢は、


 「……っ、最初からそれが狙いでしたか……私が遠慮して蓮さんに行ってもらうのも手ですが、それでは璃奈さんと六花さんの監視が……最悪の事態は防がないと……」


 よく聞き取れはしなかったが独り言を漏らした。

 

 「まぁ、兄さんは健全なので何かの間違いを起こすとは思えませんが……今回は先を越されました……」

 「どういうこと?」


 健全だとか先を越されただとか、キャンプとは関係あるようには聞こえない言葉だし、なんのことなんだろう。


 「兄さんには関係が全くないわけではないですが、気にしないでください。それより、キャンプの引率をする保護者は、美優紀さんですよね?」

 「そうだけど……」


 そう答えると、叶夢は爪を噛んだ。

 爪を噛む癖は、叶夢がイライラしたときにするものだ。


 「グルですね……まぁ、智菜さんとは共闘できそうなのは幸いですが……」

 

 と、またわけのわからないことを呟く。


 「兄さん、今回のキャンプ、一波乱おきますよ」


 叶夢の言うキャンプは、どういうわけか少し物騒なキャンプだ。


 「熊とかハチとか蛇とか?」


 一波乱の意味がよくわからなかったので思い浮かんだものを挙げて、そう訊き返すとため息交じりに


 「それも、あるかもですね。確かに熊みたいなもんですよ」


 と返された。

 買い出しでは、殺虫剤とか熊避けの鈴も買っておくべきかもしれない。

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