第34話 縮めたいキョリ

 璃奈ちゃんは、私にとって強敵だ。

 まともに話せるのが私と達希君、蓮君ぐらいしかいないということもあって、私たちの距離間は近い。

 それは別に構わない。

 でも不満はあった。

 璃奈ちゃんと達希君との距離が特に近いのだ。

 私は、達希君と小学校からずっと一緒、そして今の距離間にいる。

 でも璃奈ちゃんは、そうじゃない。

 中学校でも、私と達希君みたいに親しくしていたわけでもなくただクラスメイトで達希君が少し救いの手を差し伸べただけだって聞いている。

 ラブコメで、負けてしまうか主人公の隣の座を譲ってしまう幼馴染キャラと私が重なったかに思えた。

 それだけは、避けなきゃいけない。

 それに、世の中には幼馴染が絶対に負けないラブコメもあるんだから私の勝ち筋が潰えたわけじゃないと信じたい。


 「なんだか浮かない顔してるけど、どうかした?」


 達希君がこちらを気にかけるように私を見た。

 

 「何でもないから大丈夫」

 

 こんなこと言えるわけもなくて適当に返してしまった。


 「僕でよければ相談に乗るよ?」

 「私も、六花さんにはお世話になっているので……その、頼りにはならないですけど……話ぐらいは聞きます」


 璃奈ちゃんも胸元で小さな拳を握ってそう言った。


 「心配、ありがとう」


 笑う気分なんかにはなれなかったけど精いっぱいの作り笑いを浮かべた。

 自分でも少し引きつった笑いなんだってわかった。

 璃奈ちゃんに対してこの気持ちを打ち明けたらどんだけすっきりするかな。

 ぽっと出のあなたには負けるつもりはないって、こんな気持ちにさせられたのもあなたがいるからだって。

 でもそれを言ってしまえば、宣戦布告になってしまうしこの関係を続けることはできなくなってしまうかもしれない。

 だから私からそんなことを言う勇気はなかった。


 「じゃあね」


 私がいつも曲がる曲がり角に来たのでそう言って私は、消え入るように住宅街の影の中へと溶け込んだ。

 振り返りざまに達希君と璃奈ちゃんの姿を見るとやっぱり普通の男女の友達っていうには近かった。

 もしかしたら、あれが璃奈ちゃんのアピールなのかもしれない。

 私に対しては、達希君が好きなんですって―――――

 達希君に対しては、あなたのことが好きなんですって―――――

 むしゃくしゃして私は、誰かに今の気持ちを話したくなった。


 「光、今大丈夫?」

 

 私がコールしたのは一番信頼を置いている女子の友達の桃川光だ。


 『どうしたの?』

 「なんか、光の声を聞きたくなった」


 そう言うと、やや間があって


 『なるほどねー鮎川君のことかぁ』

 「どうしてわかったの」

 『いや、六花の声沈んでるときってだいたいそういう時だから』


 そんなに私ってわかりやすいのかな……?


 「恥ずかしいけど、正解だよ」

 『今度は、どうしたの?』

 「なんて言うか、思わない? 達希君と璃奈ちゃんが近すぎるって」

 

 嫉妬してるって思われるのは、何だか嫌だったからそういう言い方をした。


 『まぁ、あの子は事情が事情だからしょうがないんじゃないの?』

 

 光の物言いは、さもそれが当然であるかのような言い方だった。


 『仮に聞くけど、自分がとっても弱い人間で周りにも助けを求めることがなかなかできなかったとするじゃん?』

 「うん」

 『そこに、優しい男の子が手を差し伸べてくれました』

 「うん」

 『これに惚れるなっていう方が無理じゃない?』


 自分が璃奈ちゃんの立場ならきっと惚れているだろう。

 でも、それとこれとは別だ。


 「そうだけどさー」

 『そもそも六花、鮎川君に意識してもらえてる?』


 光は核心を突いてきた。 

 してもらえているか、してもらえてないかで言えば多分、後者だ。

 

 「私がいくらアピールしてもあんまり効果出てないし反応薄い……」

 

 こないだ、坂で抱き着くような格好になったときも彼の反応は薄かった。

 もう少し、リアクションを示してくれてもいいと思うのに……。


 「どうしたらいいの?」

 『多分、マンネリ化してて刺激が足りないんじゃない?ただでさえ、六花は小さいときから達希君の近くにいたでしょ?』


 いつか実る日を夢見て初恋を私は貫き続けていた。


 「そうだね……マンネリ化かぁ」

 『そうそう、でもゴールデンウィークには絶好のアピールする機会、キャンプがあるじゃん?』


 私が勝負に出なきゃいけないところだ。

 

 『テントで寝泊まりするんでしょ?六花はよく考えてないと思うけど冷静に考えてごらん?』

 「何を?」

 『キャンプに行くメンバーの中で唯一の男なのよ、達希君は』


 そこまで聞いて何となく光の言おうとしていることが分かってきた気がした。

 そして自分が、男女比について考えてなかった挙句、達希君が男の子一人になってしまうことを失念していた。


 「そ、添い寝をしろってこと?」


 恐る恐る自分が思いついた答えを言う。


 『うーん、添い寝かぁ……一押し足りないなぁ……』


 添い寝じゃダメなの?

 それよりも上の……?

 変なことを考えてしまった自分の思考を切り替える。


 『六花にはわからないかぁ。ならこの不肖、光が教えるよ!!』

 「う、……うん」


 声が上ずっているのが自分でもわかった。

 それに頬が熱い。


 『行為に至れって言ってるんじゃなくてね、ただの添い寝じゃなくてさ、抱き着いちゃうくらいしなよって言ってんの』


 光は、あっけらかんと言ってのけた。

 

 「勇気が……必要」


 添い寝するってことさえ、緊張するのにさらに積極的にいくには覚悟が必要だった。


 『そんな、悠長なことは言ってられないんじゃないの?』


 確かにこのままじゃ、達希君を璃奈ちゃんに取られてしまいそうな気がしてならない。


 「余裕はないよ」

 『じゃ、頑張りなよ』


 光は、そう言うとご飯食べるからと電話を切った。

 予想以上に大変なキャンプになりそうな気がした。

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