初めての高校生活

第28話 初登校

 「――――以上が、芹沢さんが学校に来れなかった理由です。皆さんも、彼女が少しでも過ごしやすくなるようにそういった理由があることを考えた上で、仲良くしてあげてくださいね」


 職員室で、山城先生に頼んだ通り璃奈さんの学校に来れなかった事情を話してもらった。

 SHR《ショートホームルーム》が終わった後、璃奈さんはすでに女子に囲まれていた。


 「趣味って何?」

 「鮎川君とは仲良いの?」

 「今度一緒に遊びに行こうよ!!」

 「仲良くしようねっ」


 彼女の席の周りには、女子の人垣ができていた。

 それに対して男子は


 「俺らだって話てえよ」

 「なんで女子ばっかり!?」


 と反論を唱えているがそれも


 「璃奈ちゃんに近づきたいだけなんでしょ?」

 「下心丸見えだよ」


 と、女子達に追い返されいた。

 

 「ありゃあ、上手くやっていけそうだな」


 横では、蓮が腕を組んでしきりに頷いていた。

 

 「うん、そうだといいね」


 少し背伸びをして人垣の中の璃奈さんの様子を見てみると


 「はわわわわ……」


 次から次へといろんなことを言われて脳内処理が追い付いていない様子だった。

 それを六花が


 「はいはい、璃奈ちゃんが情報過多で困ってるから、一人ずつ順番だよ」


 と、とりなしてくれている。

 

 「ありゃ、将来いいお嫁さんになるぞ?」

 「どういう意味かな?」

 「いや、今のうちに唾つけとけって意味だよ、まぁお前ら二人にその必要は無さそうだけどな」


 そう言って笑いながら購買行ってくるわーと蓮は教室を出ていった。

 

 「ちょっと、達希君もこっち来て手伝ってよ。私一人じゃ手に負えないよ」


 確かに、教室の女子のほとんどが璃奈さんの机の周りに集まってるから六花一人では大変かもしれない。


 「いいよ」


 女子の人垣の方へと向かう。

 背後では男子の


 「達希は、合法的に近寄れて羨ましいな」

 「うおぉぉぉぉぉっ達希ぃぃぃっ」

 

 と羨む声が聞こえた。


◆◇◆◇



 四時限目が終わって、お昼の時間になった。


 「達希君、お昼一緒に食べよっ」


 いつも通り、六花が僕のもとにやって来た。

 最初のころは、六花のその声を聞いたクラスメイトがざわついていたが最近は、そうでもない。


 「あそこ、いつくっつくんかな?」

 「案外もうくっついていたりして」

 「あそこまで仲いいと微笑ましくなるよね」

 

 といったのが大凡の反応だ。

 相変わらず、男子の目線は何故か剣呑だけど。

 六花は、そんなクラスメイトの声も意に介していない様子だ。

 

 「璃奈ちゃん、一緒に食べようよっ」


 璃奈さんの方も、女子に囲まれている。

 

 「あうぅ……」


 璃奈さんが、何かを求めるような視線をこっちに送ってくる。


 「あれ、助け船必要なんじゃない?」


 そう六花に言うと、


 「親鳥は、ひな鳥を巣から落とすことがあるって言うでしょ?あれ、自立を促すためなんだよ」


 ヒラヒラっと六花は、璃奈に手を振る。

 その瞬間に、璃奈が項垂うなだれた。


 「それ、育児放棄が理由だった気がするんだけど……」


 あとは、数を間引くことが理由として挙げられる。

 六花は気にも留めないというような様子で


 「時には人間、荒波にもまれる必要があるんだよ?そうやって私たちは大きく成長していくの」


 と言った。

 璃奈のためには何とかしてあげたいけど、男子の僕一人で女子の輪に行くのはちょっと無理がある。

 六花の協力がないのなら致し方ないことだった。

 ごめんっと胸の前で片手拝みをする。

 璃奈は、囲んだ女子たちによって押し流されていった。

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