第27話 復帰

 山城先生に、いくつかの頼みごとをして僕ら二人は職員室を出て教室へと向かった。

 何を頼んだのかというと、璃奈さんが学校に来れなかった経緯いきさつをそれとなく朝のSHRで話してもらうということだ。

 言わなければ言わないで、根掘り葉掘り聞かれる可能性はあるし璃奈さんは人とのコミュニケーションが苦手なのでそれにうまく対応できないことも考えられる。

 それが理由で、クラスメイトとの間に溝が生じてしまっては再び学校に来なくなってしまう可能性も考えれた。

 そして僕らは教室の前についた。


 「入るよ?」


 璃奈さんに断りを入れるとコクっと頷いた。

 彼女の席については、実は六花の隣になっていたりする。

 それもある程度事情を知る担任なりの配慮だった。

 教室の中に入ると、もう着席時刻間際でほとんどの生徒がそろっていた。

 

 「達希、おはよ……って、芹沢ちゃん連れてきたの?」


 最前列の席に座っていた、長身の男子が話しかけてきた。


 「蓮、僕が強引に連れてきたわけじゃないからね? 芹沢さんの意思だよ」

 「芹沢ちゃん、俺のこと覚えてるかな?」


 自分の顔を指さしながら蓮は、訊いた。

 

 「…えっと、はい。水野蓮さん……ですよね?」


 目を見開き、蓮は驚いたような顔をした。


 「お、覚えてくれてたのか」

 「はい……。話したことある人が少ないので……覚えるのは簡単なんです」


 璃奈さんは、にヘヘっと弱々しい笑みを浮かべた。

 

 「なーに、これからいろんな人と話してけば、いいさ。それはそうと達希、お前さ、このこと六花に伝えてあんのか?」


 このことというのは璃奈さんを学校に連れてきたということだろう。


 「別に言わなくてもいいかなって思ったから伝えてないや。朝からつき合わせるのも悪いし」


 そう言うと蓮は、ため息をついた。


 「お前なぁ、後々面倒なことになっても知らねーぞ?」


 そのとき、教室中に響き渡る声が聞こえた。


 「ちょっ!? 達希君、えっ何で!?」


 紛れもない六花の声だった。

 ほらな、と蓮は肩をすくめた。


 「噂をすれば、だね」


 六花の声に気づいてか、クラスメイト達もこちらを見て様々な反応をした。


 「誰あの子? めっちゃ可愛いやん」

 「鮎川君の彼女だったりしてね?」

 「うお、めっちゃ可愛いっ!!」

 「六花と、あの子に挟まれたら俺、生涯に一片の悔いなしだわ」

 「バカ、聞こえるぞ!!」


 一瞬で教室は、騒がしくなった。

 

 「達希君、どういうこと?」


 六花が、こちらにやってきて耳打ちした。


 「芹沢さんの意思だよ」

 「私が、鮎川君にお願いしました。……一人で来る勇気がなくて……」

 「なんで私も呼んでくれなかったの?」


 あぁ俺が話そう、と蓮が僕と六花の間に割って入ろうとしたが


 「達希君に聞いてるの」


 六花はそう言って、間に蓮をいれなかった。


 「連絡したら、六花に気を使わせちゃうだろうし、忙しい朝からつき合わせるのは申し訳ないなって思ったから連絡しなかった」


 何かを言いたげに六花は、頭を押さえた。

 いつの間にか、璃奈さんはクラスの女子たちに囲まれている。

 いろいろ一気に聞かれたりして大変そうだ。

 

 「はい、着席してくださいね」


 パンパンと手を叩きながら山城先生が教室に入ってきた。

 

 「みんなの気になるその子のこともSHR《ショートホームルーム》で話すから」


 山城先生がそう言うとクラスメイト達も席に着いた。

 六花に、璃奈さんが今日来ることを伝えてあったら、こんな大変にはならなかったんじゃないかって今さら思いながら席に着いた。

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