第26話 不登校にさよならを

 学校――――本当に久しぶりだ。

 中学校は、まだ小学校から一緒の人が多くて環境に順応するって意味じゃハードルが低いイメージだけど、高校は中学校が一緒の人の数が減ってしまうからハードルが一気に跳ね上がるような気がする。

 中学校でまとものな交友関係を築けなかった私からすれば別世界だ。

 人に助けを求める勇気もなくて、一人で何をするでもなく、うじうじとしていた。

 面談で先生に相談するということも考えたけど、苛めを受けているわけじゃなくてただ疎外感を感じているだけで実害はなかったから相談することはしなかった。

 自分でも原因は自分にあるってわかっていたから―――。

 でも、今はその頃とは違う。

 私には、手を引っ張ってくれる人がいる、支えがある。

 それは、私には十分すぎるものだった。

 そして私は、私を支えてくれる人たちの気持ちに応えなきゃいけないって思った。

 これ以上、周りをがっかりさせたくないって思った。

 だから、鮎川君が心配してかけてくれた言葉には、微笑みを返した。

 

 「でも、ここまで鮎川君にお膳立てしてもらったんですから行かなきゃですね」


 大丈夫です、行けますって。

 鮎川君は、私の歩幅に合わせて歩いてくれた。

 時々、私の歩幅に合わせるために小またになるのには少し申し訳なく思った。


 「桜は綺麗だったんでしょうね」


 学校に至るまでの道沿いには、途中から桜並木があって今はもう散ってしまっていたけど、これが満開だったらすごく綺麗なんだろうなって考えたら、学校に行かずにうじうじしていた私が少し悔やまれた。


 「うん、すごく綺麗だったよ。来年もあるから、そのときまた見れるよ」


 鮎川君は、そう言ってにっこりと笑う。


 「一緒に見れたらって……あ、うん何でもないの」


 思わず本音が口に出てしまったので慌てて取り消した。

 一緒に見れたらいいなって思った。

 

 「でもね、咲いてる時だけが綺麗なわけじゃないよ。散った後はこうして道を彩ってくれているし葉っぱも青々として綺麗なんだ。ってまぁ、徒然草の受け売りなんだけどね」


 そんなことを話しながら歩いていると気づけば校門前についていた。


 「とりあえず、担任の先生に話してから行くべきだよね?」


 鮎川君が言うならきっとその方がいいんだと思う。

 

 「う、うん」


 鮎川君の後に続くようにして昇降口を通り抜け階段を上がり職員室へと向かう。


 「荷物は、隅の方に置いて。そういうルールだから」


 荷物を廊下に置くと


 「失礼します」

 

 といって鮎川君が職員室へと入っていくので慌てて私も荷物を置いて鮎川君にならった。

 

 「山城先生、お仕事中失礼します」


 慣れない空間、知らない人たち。

 私には、鮎川君だけが頼りだった。

 守ってもらうように隠れるように、気付いたらぴったりと鮎川君の背中に隠れるように寄り添っていた。


 「そちらに隠れている子が、芹沢璃奈さんですね?」


 声のした方を見ると、優しげな笑みを浮かべた先生がいた。


 「芹沢さん、よく来ましたね」


 私の不登校は、ようやく終わりを告げようとしていた。

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