第25話 お迎え

 月曜の朝を迎えた。

 今日の朝は、いつもより少し早めに家を出なきゃならない。

 なぜなら――――

 

 「いってらっしゃい。芹沢さんをちゃんとエスコートしてあげてくださいね」


 そう、璃奈さんが学校に今日から行くのだが本人に頼まれその付き添いをすることになったからだ。


 「うん、エスコートっていうほど大したものじゃないけど行ってくるよ」


 叶夢かなめに見送られながら家を出た。

 璃奈さんの家まで距離はなく、数分歩くともう着いた。

 一応、連絡は入れておくべくなのかな……?

 メッセージアプリを開いて一言送った。

 

 『着きました』


 それからインターホンを押した。

 ドアの向こうからドタバタと慌てて走るような音が聞こえて少したってから、ドアが開いた。


 「おはようございます、先輩。まだ少しかかりそうなのでとりあえず、玄関ホールにでも座って待っててください」


 扉の向こうから出てきたのは妹の智菜さんの方だった。


 「わかった。ありがとう」


 断る理由は、ないのでお邪魔することにした。


 「姉さん、急いでくださいねー」

 「私が起きなかったら早く起こしてよ」

 

 家の奥の方から璃奈さんの声が聞こえた。

 どうやら寝坊して身支度が終わっていないのかな?

 

 「二度も起こしたのに起きない姉さんが悪いんですよ?」


 クスクスと笑う智菜さんの声も併せて聞こえてくる。

 

 「むぅー。だって今日は大事な日だから緊張してて眠れなくて、でも気づいたら寝ちゃってそれで睡眠時間が足りなくて起きれなかったのっ」

 「大事な日って具体的に言うとどこが大事?」


 しばらく沈黙があって


 「今日は、鮎川君と学校に行くんですっ!!」


 この姉妹の会話を聞いてると本当に仲が良さげで微笑ましい。

 璃奈さんのような場合、きっと智菜さんみたいな面倒見の良い人じゃなければ妹は務まらないとも思うのだ。

 2人の会話を聞いていると、そこに智菜さんが爆弾を投じた。


 「あ、ちなみに姉さん、鮎川先輩にこの会話は筒抜けですからね!?」

 

 奥の方から、何かが落ちる音が聞こえた。


 「どうして、それを早く言ってくれないのーっ!!」


 してやったりという顔で智菜さんがニヤニヤ笑っている。

 その声は、静かな姿しか見たことがなかった璃奈さんからは想像できない声で、姉妹でいるときは元気なんだなと思った。

 まだ、一面しか知らないんだなって。

 それから姉妹の間でひと悶着を経て―――恥ずかしさに顔を赤らめた璃奈さんと一緒に家を出た。


 「……あの…恥ずかしいところを見せてしまいました……」


 隣を歩く璃奈さんは、しおらしい。

 

 「大丈夫。2人は、仲がいいんだね」

 「……はい、幼いころに両親が離婚して姉妹そろって母と智菜の三人で生活してきて、母は帰りが遅いことも多くて……」


 2人でいる時間が長くなったのか……。

 僕ら兄妹と似た境遇だな。

 

 「なんか、訊いちゃってごめんね」


 こういうことは、あんまり人に言いたいような話じゃないだろう。

 

 「いえ、いいんです。そう言えば、鮎川君も妹さんの……えっと……叶夢さんと仲がいいですよね」

 「うん、彼氏彼女と間違われるくらいには、ね」


 そう返すと、璃奈さんはボンっと音が聞こえそうなくらいに赤くなった。

 そう言えば、璃奈さんにもそういう関係だと間違われたんだっけ。


 「あ、変なつもりはなかったんだ。からかうつもりは全くなくて……ちょっと迂闊うかつだった」

 

 謝ると、両手を胸元でヒラヒラさせて璃奈さんは


 「あ、いえ……あれは私の早とちりだったので……」


 目を逸らしながらそう言った。

 話しているうちに駅についてタイミングを見計らったかのようにやって来た電車に乗り込む。

 満員電車の中では、さすがに話す気にもなれなくてスマホを弄って時間を潰した。

 そして学校の最寄りの駅に着く。

 電車を降りる乗客の中には、同じ制服を着た学生もいて親しげに仲間たちと話していた。

 対して今の僕らは、互いに黙りこくったままではたから見れば、少し気まずい雰囲気にも見えるのかもしれない。

 璃奈さんの方を見ると、歩くペースが格段に落ちていた。

 

 「どうかしたの?」


 そう訊くと俯きがちに


 「……緊張してきました…」


 と言ったが顔を上げて


 「でも、ここまで鮎川君にお膳立てしてもらったんですから行かなきゃですね」


 精一杯といったふうに微笑んだ。

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