第24話 本音
「今日は、楽しかったですね」
お昼ご飯を食べてその後またお店をまわって、気付けば夕方になっていた。
ビルの合間を縫うような光は、随分とここに来た時よりも和らいでいる。
「そうだね」
春の暖かさを孕んだ風がバス停でバスを待つ僕らを包む。
午後五時を過ぎた街並みは、春ののんびりとした雰囲気とは裏腹にせわしなく、行きかう人や車が増えていた。
帰りのバスも混んでいて人いきれの中、すべての信号に止まっているんじゃないかってくらい進まないことに少し
「ここで降りません?」
右隣で吊革に捕まっていた、
ここは、僕らの家から最寄りのバス停の二個手前のバス停で、ここで降りると川沿いを遠回りで歩いて帰ることになる。
でも、あとバス停二つ分の時間をバスで過ごす気にはなれなくて降りることにした。
「ちょっと遠くなっちゃうけどいいよ」
運賃を運賃箱に入れてバスを降りると、風が気持ちよく、ちょっとした開放感があった。
「話したいことがあったんです」
しばらくの沈黙の後、叶夢はそう切り出した。
続きを促すことは、急かすようで少し違う気がして自分から言うのを待つことにした。
「兄さんは、何があったか訊いてくれないんですか?」
「叶夢が、自分の意思で話してくれるのを待ってるだけだよ」
「兄さんは、そういうところも優しいんですね」
叶夢は、そう言って微笑んだ。
「
「あの時、芹沢さん私を兄さんの彼女だと勘違いして場を去って……ほんとは、私が兄さんの妹だって言うべきだったと思うんです。でも、私はそれをしなかった」
あの時は、二人でどこかへ行くときのいつもの距離間と違って少し近い気がした。
「兄さんの彼女だって見られたこと自体は何となく嬉しくて……あ、変な意味じゃないですよ?」
「わかってる」
「なんて言うか、付き合っているように見えるってことは私が兄さんと釣り合って見えたって私が兄さんの隣にいて変じゃないってことじゃないですか……だからちょっと嬉しくて……それに私、兄さんをあんまりよく知らない人に取られるのが嫌で……兄さんが芹沢さんを支えてあげるのは必要なことだろうし、たぶん兄さんじゃなきゃできないことだとは思います……。でも、それで構ってもらえる時間が減っちゃうのは、何だかちょっと嫌で……」
そこまで言うと、叶夢は俯いた。
そっと叶夢の頭に手を置く。
「叶夢は、頑張ってるし立派だよ。そんなに自分を低く見ることは、しなくていいじゃないかな。むしろ胸を張っててほしい」
「こんなに我がままな妹ですよ?」
叶夢の言ったことは僕個人としては我がままのうちにも入らないと思う。
なぜなら―――
「叶夢は、いろいろ我慢して勉強もちゃんとして生徒会でも頑張ってていろいろ一所懸命に取り組んでると思う。それこそ、それくらいで我がままって言ったら世間一般の人の我がままが超我がままになっちゃうよ」
だから、と―――
「その小さな我がままのはけ口に僕でいいならなるよ。だって僕は、兄だから」
叶夢の言うほど立派な兄じゃないけど、母を亡くし父は単身赴任でめったに帰ってこない僕らにとっては本当にかけがえのない家族だから。
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