第23話 プレゼント

 「ねぇ、最上階の書店に行ってもいいかな?」


 少しの休憩を挟んで再び、父への誕生日プレゼントを探して大きなビルの中を彷徨さまよっていた。

 

 「ちょうどよかったです。私も買いたい本があったので」


 エレベーターホールに向かい、△のボタンを押してエレベーターを捕まえる。

 エレベーターは、混み合っていてすし詰め状態だ。

 でも、混雑しているからといって何度見送っても同じだろうから乗ることにした。

 二人で隣り合って乗るにはスペースがないから

 

 「先乗って」


 と、叶夢を促してエレベーターの隅―――ちょうど行き先を指定するボタンの前に乗せて僕は、叶夢に覆いかぶさるように乗った。


 「兄さんの顔が近い……」


 叶夢の顔を見ればジュースのとき以降、なりを潜めていた顔の赤らみが再び現れている。

 

 「少しの間だから我慢してて」


 今の僕の姿勢は、俗に言う壁ドンの姿勢だ。

 でも、それによって叶夢と僕のスペースは確保できている。


 「べつに嫌じゃない……」


 そう言うと、叶夢は少し俯いて押し黙った。

 最上階は、書店のみなので行く人も少ないらしく、手前の階になるころには、だいぶ人が減っていた。


 「狭くしてごめんね」


 叶夢の様子が気がかりだったので、一応謝ってから今までの姿勢を解く。

 チーン、と目的の階に着いたことを知らせる音が鳴って扉が開いた。

 今まで自分たちがいたフロアの雑踏が嘘のように感じられるほどそこは静かだった。

 エレベータを下りて右手にある、カフェスペースからは静かな湯気と珈琲の香りが漂っている。


 「じゃあ、別行動でいいかな?」


 今まで、日本で刊行されてきた本がすべてあるんじゃないかってくらいに店は広く本棚は高い。

 本棚の下には列ごとに脚立が置かれていた。

 

 「買いたい本は別ですもんね、二人で回ってたら時間もかかっちゃうので、それでいいです」


 そう、まだ父へのプレゼントを決めれていないから、そんなに時間をかけるわけにはいかなかった。

 久しぶりに来るので、どの辺になんのコーナーがあるかを忘れてしまい、書棚にある表示を見て目的のコーナーを探すことにした。

 僕が欲しいのは、補助教材だ。

 今は、まだ始まったばかりで内容も簡単ではあるが、教科書をめくっていけば内容が難しくなっている。


 「あった、ここか」


 そこには、各出版社から出された大量の補助教材や参考書なんかがあった。

 気になる本を手にとっては、中身を確認していく。

 自分に合わなければ買う意味はないのだ。

 選び抜いた二冊をもってレジへ向かう経路の途中、あるコーナーに目が留まった。

 そこには、木製のブックカバーが数種類、置かれていた。


 「兄さん、私の方は終わりましたよ」


 叶夢は左手に買った本が入っているのだろう店のマークの入った袋を提げていた。


 「叶夢、これ見て」


 手招きをして、ブックカバーを見せる。


 「あ……これは、いいかもですね」

 

 父は、読書が好きで単身赴任する引っ越しのときも段ボールに本を詰め込んでいた。

 数種類の木製ブックカバーを叶夢が興味深そうに手に取って模様を確認していた。

 そして、その中からある一つを手にした。


 「これにしません?」


 それは、夏の草花がデザインされた清涼感のある品だった。

 

 「うん、いいね。じゃあ買ってくるよ」


 それを手に取りレジへ行く。

 店員さんに、包装をお願いして会計を済ませた。


 「兄さん、お昼前に買い物終わりましたけど、どうします?」


 本屋に来たことで予想より早く終わった買い物。

 帰るという手がないわけではないが、今日は久しぶりに二人で出かけたのだ。

 それは、なんか違う気がして


 「とりあえず、どっかでお昼にしないかい?」


 もう少し二人でお出かけを楽しんでもいい気がした。


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舞台の駅ビルは、私の地元だったりします。

ぶっちゃけてしまえば浜松市なんですが、音楽の街元は言うものの、音楽関係者に言わせれば、うちの地方は「文化の死んでる場所」らしいですね。

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