第22話 兄妹とジュース
バスを降りると人垣の中に吸い込まれるようにして僕らは、駅ビルの中へと入った。
休日の駅ビルは、朝から人で賑わっている。
「二人で来たのはいつぶりでしょうね、兄さん」
叶夢が、そばにくっつきながらそういった。
「そうだな……いつぶりだろうね」
母が亡くなってから、あんまりこういうところに来る気にはなれなかった。
二人でこうやって来たのは母の死より前、二年以上は前のことだった。
母が生きてた頃は、無論二人でも来ていたし母に連れられてくることも多かった。
「お母さん、このお店好きだったよね」
叶夢は、品よく革製のバックが並べられた店の前で立ち止まった。
でも前とは店の雰囲気が違っていて、よく見れば店名も変わっていた。
「移転したのかな?」
僕がそう言うと、残念そうに叶夢が
「とりあえず、以前来ていた店を回ってみようか」
それで、何か父へのプレゼントが決まるかもしれない。
朧げな、記憶をたどりつつ、雑貨屋をメインに二人でいろんなお店を回った。
「疲れたね、ちょっと休もうか」
「ほんとですよ、今までだったら店で何か買うからその店でゆっくりできたんですけど今日は、今のところウィンドウショッピングみたいに素通りですもんね」
二人で、エスカレーター
「兄さん、喉が渇きましたね」
叶夢が、僕の肩をツンツンとつつきながらそう言ったがその目は僕の方を見ていない。
目線をたどっていくと、その先にはジューススタンドがあり、若者のカップルや子連れの客で賑わっていた。
「喉が渇きましたね」
叶夢が、今度は僕の目を見据えながら同じことをもう一度言った。
飲みたいってことなのか。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
こういう時の叶夢が退かないことを知っているのでおとなしく買いに行く。
「兄さんのチョイス、期待してますね」
そういうと、叶夢はヒラヒラと手を振った。
店の前に行き列の最後尾に着く。
前にいるのは、五組ほどで注文カウンターに二人の店員さんがいるからそこまで待つことはなさそうだ。
メニュー表には、12種ほどのメニューがあった。
叶夢の一番好きなフルーツは苺だから、苺の入っている物を選ぶべきかな。
そんなことを考えていると、カップを持った高校生ぐらいの二人連れの女子から声をかけられた。
「鮎川君かな? こういうお店に来るんだね~」
「意外な一面です」
向こうは、僕を知っている風体で話しかけてきたが誰なのかが分からない。
「え、っと……」
だから返しに困っていると
「クラスメイトの
「同じくクラスメイトの
自己紹介をしてくれた。
「ごめんね、教室で見るときと全然違うからわからなかった」
特に七海さんは教室では眼鏡だった気がする。
「こっちこそ、戸惑わせちゃったみたいでごめんね~。ななみんはコンタクトだし、私は化粧しちゃってるし、出会って間もない状態じゃわからないよね」
「いや、雅ちゃんのは見慣れてる人でもわからなくなると思うよ。メイク上手いし」
「それもそうかもね~」
二人は、ほんとに楽しそうに笑っていた。
すると、背中に視線が突き刺さるのを感じた。
視線の方に振り向くと叶夢が不満げな顔をしてこちらを見ていた。
「鮎川君、あの子ってひょっとして彼女だったり?」
僕が叶夢の方を見ていたことに二人も気付いたらしく三枝さんがそう訊いてきた。
「いや、あの子は……」
妹だと訂正をしようとしたが、七海さんが矢継ぎ早に
「清楚で、とても可愛らしい人ですね。雅ちゃん、邪魔になるかもなので私たちは退散しましょう」
と言って、
「ん、そうだね。ゆっくり楽しんでね~」
訂正する間もなく去っていった。
気づけば、注文は自分の番になっている。
もう一度、メニューを見て
「たっぷり苺ミルクと、三種のベリーで」
と、注文した。
やがて、会計カウンターの方で渡された二つのカップをもって急いで叶夢の方へと戻る。
「お待たせ」
苺の方を、叶夢に渡した。
「兄さん? さっきの人達は?」
不機嫌そうな
「クラスメイトだよ」
ふーん、そうですかというような感じで、ストローに口をつけて一口飲むと
「久しぶりに一緒に来てるんですから、他の女の子にかまけるのはちょっと……嫌です」
と、言って体を僕の方へと向けて
「罰として兄さんのそれ、ちょっとください」
僕の飲んでいる三種のベリーのカップを指さした。
そんなことで叶夢の不機嫌が治るものなら安いものだ。
コップを差し出す。
「うん、いいよ」
それを叶夢は受け取るとストローに口をつけた。
でも、叶夢も女子なので一応訊いていておくことにした。
「なんて言うか、その……間接キスになっちゃうけど大丈夫?」
叶夢は、一旦ストローから口を離して、こちらを見て何かを言いたげに一瞬口をぱくぱくさせた後、
「か、家族なんですから問題ないですよ!!」
と少し顔を赤らめながらそう言った。
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