第18話 さようなら
鮎川君には彼女がいたんだ……。
あの距離感は、きっと彼女。
直感的にそう判断したから私は、あの場から答えを聞かずに逃げた。
うん、そうに決まっている。
決して周囲が気になってしまったんじゃない。
自分の情け無さを自分でしかたのないことだったからと肯定する。
「ごちそうさまでした」
ご飯を、無言で食べ終え階段をあがって自室へ向かう。
「姉さん、どうしたの?」
と、智菜に訊かれたが
「何でもないよ」
といってその場を去った。
食後、一人で自分の部屋に籠っているとマナーモードにしてあったスマホがブーっと音をたてた。
メッセージが、届いていた。
鮎川君からだ。
『こんばんは。スーパーで一緒にいたのは妹の
端的なメッセージが三文。
それを読んで私は、申し訳ない気持ちと情けない気持ちの板挟みになった。
勝手に早とちりして変な誤解をしてしまったこと、そして私自身の勝手な考えに対し鮎川君に謝罪させてしまったこと。
恥ずかしい。
穴があったら潜りたい。
あんな姿は見せたくなかった。
鮎川君は、きっと私があの場から逃げてしまった理由をわかったうえでメッセージを送ってきている。
しかし同時に安堵感に包まれた。
スーパーで鮎川君の横にいた女の子は、彼女じゃなかった。
「良かった……」
思わず声に出てしまった。
『ご心配とご迷惑をお掛けしてしまってすみません』
メッセージを返す。
文字だったら、普通に話せるからいいのに。
今、私が鮎川君の前にいたとしたら緊張で話すどころではないだろう。
多分、無言でもじもじしていると思う。
「情けないなぁ。私……」
いつまでたってもこんなんじゃ、ほんとに鮎川君を他の女の子に取られてしまいそうだ。
もしかしたら、いつまでも改善しない私の不登校に嫌気がさして嫌われてしまうかもしれない。
他の女の子に取られたくない、嫌われたくない、いいところを見てもらいたい、お話ししたい。
多分こう思うのは、きっと私は―――好きなんだ。
自分でも、ちょっと優しくされたくらいで、チョロいなって思う。
ちょっとかどうかはわからないし、あれが彼の普通なのかもしれないけど。
でも、それはコミュニケーションが苦手な私には、人とのかかわりの少なかった私には十分すぎる動機だ。
少しづつ距離を縮めたい。
私に興味を持ってもらいたい。
できるなら、もっと仲良くなりたい。
「だったら、どうする?」
自問。
「ちゃんと学校に行かなきゃ…」
自答。
私は、迷わず鮎川君とのトーク画面を開く。
『私、学校に行きます』
気持ちが変わらないうちにどこかで宣言しておかないと、私はきっと学校に行くことをあきらめてしまう。
でも、一人で行って教室の扉をくぐれるかな……。
だから、こう付け加える。
『朝、一緒に学校に行ってもらえませんか』
躊躇することなくそう打ち込んだ。
一緒に行く光景を想像する。
恥ずかしいけど、一緒に行くということには、私の淡い想いも含まれている。
「今までの私にさようなら」
私は、生まれ変わります。
「きっと大変だけど頑張らなきゃ」
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