第17話 悶々
鮎川君の横に、かわいい女の子が……いる。
六花さんは、彼女じゃ無かったんだよね……?
油断してた―――鮎川君の周りの女子は、六花さんだけだと思っていた。
考えてみれば、鮎川君は私と違って学校に毎日通っているのだ。
だから、女の子の友達―――それも親しい仲の人もいるはずだ。
「姉さん、なんか変だけど大丈夫…?」
智菜が気遣ってくれる。
でもそれが痛い。
私は、自業自得でこんな状況に陥っているのだ。
「えぇ……大丈夫……」
でも待って…まだあの子が彼女と決まったわけじゃない。
ここは、思い切って訊いてみようか……でも仮にも彼女でなかったときのことを想像すると恥ずかしい。
そうだ、智菜なら何か知っているかもしれない。
「ねぇ……あの女の子、誰……? 鮎川君の、その、彼女だったり……する?」
ツンツンと智菜の肩をつついて尋ねる。
「誰って……そりゃあ……」
智菜は、そこで言葉をきると悪戯を思いついた子供のような顔をした。
「姉さん、私もよく知らないので気になるのなら自分で訊いて下さい」
えぇぇ……答えてくれると思ったら智菜も知らないらしい。
でも、こんな質問できる勇気は私にはない。
どうしよう……。
訊きたいけど聞けない。
そんなことを考えていると智菜が
「訊かずに帰ったら悶々とするのは姉さんですよ?」
と、追い打ちをかけてくる。
そうだよね、絶対訊かなかったら気になってしょうがない。
「姉さん、こんなんで躊躇するようじゃいつまでたっても学校行けませんよ?」
…そうだよね。
それは正論。
そうだ……こんなんで立ち止まっちゃうようじゃいつまでたっても学校にいくことはできそうにない。
一歩でも前進、少しでも変わらなくちゃ……。
訊いてみよう、うん。
こういう場合ってなんて訊くのが正解かな……?
そちらの人は、鮎川君の彼女ですか?
訊きたい内容をそのまま質問にすると多分こうなる。
でもこれって私が鮎川君の彼女を意識しているみたいで恥ずかしい。
次を考えるべきだ。
横の方は誰ですか?
私が意識している風には聞こえない尋ね方だ。
でも、これだとなんで訊くのかが明確ではない。
一つ目であれば、彼女であるか否かの確認という目的が明確だ。
何が足りないかといえば、訊く理由だ。
なら、はじめましてになりますね。どなたなのですか?
これなら……訊く目的は、初めての人で気になって訊いたということになり私が彼女を意識していることは、まずわからないはず。
最適解かも。
初めましてになりますね。どなたなのでしょうか?
口の中で反芻する。
緊張で心臓が今にも飛び出しそうだけど訊かなきゃ私は前に進めない。
先日の夜、空に一歩を踏み出す勇気をくださいと願った。
でも、自分から努力しない人に天は救いの手を差し伸べてくれるだろうか。
天は自ら助くる者を助く、という言葉が頭をよぎる。
そう、自分で努力しないものに救いはない。
だから、私は勇気を振り絞って言葉を絞りだす。
「初めましてになりますね」
そこまで行ったときに横から脇腹辺りをつつかれた。
「姉さん、そんなんじゃ全然聞こえないよ」
声が小さかったのか耳に手を当てながら智菜がそう言った。
なら今度こそ―――
「よ、横の女の子は誰なんですか!?」
何か、言おうとしていた言葉とは少し違った気がしたが……言えた。
声が大きくなりすぎた気がしたけどそれでも訊けたことを思えば、些細なこと。
言えたよ、と智菜の方を見る。
「あちゃ〜その訊き方はちょっとダメでしたね」
ダメだったってどういうこと……?
あたりの様子をうかがってみると―――
「修羅場かしら?」
「あらあら、本当ね」
と、買い物かごを持った女性二人が。
「ママー、大変そうだね。あっちが元カノなのかな」
「こら、あんまり人さまを不躾に見るんじゃありません」
と子供とその母親。
そんな周囲の様子を見て、私は自分の失態に気づいた。
初めましてと前置きがなかったこと、どなたではなく女の子といってしまったこと、声が大きかったこと、それにより少し食い気味な言い方となってしまったこと―――あげれば、いくらでも出てきそうだ。
周囲の視線が刺さるのを感じる。
興味、哀れみ、etc……。
「ごめんなさい。忘れてくださいっ」
その言葉をなんとか言うと私は―――逃げるようにその場を去った。
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