第15話 三人の帰り道

 「充実した週末にしてくださいね」


 帰りのSHRが終わると、山城先生は、すたすたと教室を出ていった。

 教室内の生徒も次々と退室していく。

 野球部の生徒は、まだ部活見学すら行われていない一般生徒たちよりも一足早く部活に参加していてユニフォームに着替えはじめていた。

 ほかの生徒は放課後遊ぶのだろうか、カラオケやボーリングの話でにぎわっている。

 

 「達希君、今日は行くの?」


 六花が、友人たちと別れてこちらへと向かってくる。


 「いや、今日は行かない。帰ってスーパーに買い出しに行く」


 そう告げると六花は残念そうな顔をした。


 「ん、分かった。じゃあ途中まで一緒に帰っていいかな?」

 

 さっきまで六花と一緒にいた彼女の友人たちがニヤニヤしながらこっちを見て来る。

 少しばかり、居心地が悪い。

 と、そこに


 「お、いや〜二人とも熱いねぇ」


 横から、長身の男子がやってきた。


 「蓮、そんなんじゃないよ」

 

 そうだよね、と六花を見ると六花は、なぜかそっぽを向いた。


 「知らないっ」


 なんか気まずくなるようなことを言ってしまったのだろうか。


 「ん〜、青春」


 そう言うと、僕たちに向かって蓮が温かいまなざしを向けてくる。


 「それはそうと今日は俺も直帰でな、お二人の間に混ぜてもらえないかい?」


 蓮は、いつも誰かと遊んでいるのか高校に上がってからまだ、二週間程度だが一緒に帰ったことはなかった。


 「僕は、いいけど」

 

 六花の同意を求めるべく視線を向けると


 「私も、問題ない。別に邪魔されたとかそう思ってるわけじゃないから」


 そう言う六花を見て蓮は、吹き出しそうになり慌てて口に手を当てて笑った。


 「お前ら、本当に仲いいな。中学のときからそんな感じだもんな。くっつかないのが不思議だ」


 蓮がそう言うと六花は顔を赤らめて


 「ちょっ…蓮、何言ってんのっ!?」


 と、まくしたてるようにそう言った。


 「六花、顔赤いぞ?」


 蓮がニヤニヤしながら、そこに追い打ちをかける。


 「…っ…蓮なんて無視して行こう!!」

 「え……あぁ」


 六花がむんずと僕の手を取って歩く。

 とっさのことで少し取り乱しそうになった。

 

 「おい、待ってくれよっ。悪かったって」


 蓮は、片手で拝みながら後を追ってきた。


 ◆◇◆◇


 駅で、電車を降りて蓮は自転車を取ってくると二人の横を自転車を押しながら歩く。


 「んで、さっきの話の続きだが達希と六花が一緒に帰ってたのは、それが理由だったのか」


 電車の中で六花と自分、璃奈さんのことを蓮に話したのだ。


 「他言無用にしといてね」


 と六花が付け足す。


 「ああ、だがその理由を言わないとクラスの連中が納得しそうにないな」


 蓮から聞いた話では、僕と六花の恋仲を疑うクラスメイトがいるらしくそれなりに話題にもなっているだとか。

 まあ、そういう目線を感じないわけではなかったし、そう思われてしまうのも納得のいく話ではある。


 「なんだかんだで私たち、一緒にいること多いもんね」


 六花が、なぜか嬉しそうにそう言った。


 「お前も、その気がないのならその態度は止めた方がいいぞ。それもまた、誤解を生む原因だからな」

 「わかってるって。蓮は、しつこいなぁ」


 六花は、むくれ顔で明後日の方向を向く。


 「お前らのためを思って忠告してんだからな。六花は狙ってる男子は多いし、ありもしないことで噂をたてられて困るのはお前らだからな。事実、俺のところにも達希と六花の関係を訊きに来た奴は、いた」


 人の噂も七十五日と言ったりするが、面倒なことは避けたいというのが本音だ。


 「じゃ、俺そろそろ行くわ。またな」

 「あぁ、うん」


 蓮は、自転車にまたがると片手を軽く振りながら走り去っていった。

 さっきから黙っている六花の方を向く。

 すると、隣を歩いていた六花が歩みを止め、顔を上げた。


 「ねぇ、私との噂をされるのは嫌かな…?」


 珍しく少し、しおらしい六花の姿がそこにはあった。

 嫌かと問われれば、そんなことはない、ただ面倒くさいだけ。


 「そんなことなはいよ。仲良くしてくれて嬉しいよ」


 そう言うと、六花は顔をほころばせた。


 「そっか……ありがとう。達希君は、優しいね」


 気づけば、もう僕の家に向かう道と彼女の家に向かう道との分岐は、すぐそこだった。

 ありがと!そう言うと六花は、駆けて行った。

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