第12話 脱不登校#3
鮎川君は私の目の前に腰を下ろした。
彼が初めて私の家に来たのは先日のことで彼は私を多分、認知してくれていなかった。
でも私は、彼の顔をその時見て彼を思い出した。
斉川さんを含めて私たちは、同じ中学校出身だった。
私たちのいた中学校は、ホームルームデイというものが一学期が始まってすぐにあった。
それは、今まで違う学校で特に交友関係を持たなかった生徒たちの親睦を深めるということが目的のイベントなのだが、当時も今と変わらず人とかかわるのが苦手だった私には上手くゆくはずもなかった。
最初の問題点が班決めで、当日一緒に行動する班のメンバーを決めるのだが私にとってはわかりきっていたこととはいえ、その時間がつらい。
クラスの親睦を深める学期初めの行事―――といってもすでにコミュニケーション能力のある人たちは、学期が始まって最初の数日で、ある程度の関りをクラスメイトと持っていた。
無論、小学校からの付き合いのある人たち同士が仲がいいのは言うまでもない。
そんな中で、私は置いてかれてしまう。
「芹沢さんも入れてもいいかな?」
気を利かせてくれた生徒もいたが
「ん〜、もっと楽しい人と組もうよ」
その意見は、誰かしらに反対されてしまう。
自分から行くべきなのはわかっているが、そんな度胸は当時の私に―――いや今も……備わっているはずがない。
嫌われているわけでもなく存在感があるわけでもなく相手にされない。
それが私の立ち位置だった。
そんな、私をグループに混ぜてくれたのが彼―――鮎川君だった。
「ねえ、う〜んと芹沢さんでいいのかな? 僕のいるグループに来ないかい?」
そのとき、どんな顔でどんな声で答えたかは覚えてないけど彼のグループに入れてもらったのだ。
それから、水野君だったかな……?や同じグルプのメンバーのクラスメイトと細々とした交友関係を持つことができたのだ。
そんな思い出があったから鮎川君のことは忘れるはずはないし忘れることはできなかった。
今だってこうして家に来てくれて関わりを持ってくれているのだからいつかはそれに報いなきゃならない。
◆◇◆◇
「せっかく集まったんだから何か話そうよ」
六花がしばらく続いた静寂を破った。
僕たち三人の間には、ここに座ってからなぜか静寂が流れていた。
「そうだね」
「ご、ごめんなさい」
ふーむと短く唸った六花は
「そうね、改めて自己紹介しよう!!」
交流関係の広い六花はこういうところで機転を利かせるのがうまく、話題をきりだしてくれる。
「いいね」
「あぅ……はい」
この場の
多分、璃奈さんこういうのは苦手だと思うからね、誰かのを聞いて何を言うのかを参考にした方がしやすいと思う。
「っていうのは止めておいて言い出しっぺの私からするよ」
何言おうかな〜と目を細めたあとおもむろにこちらを向いて
「何が訊きたい?」
と尋ねてきた。
璃奈さんもいるんだし無難に……
「名前とか、出身校とか、趣味とか言いたいことがあったら何か一言とかでいいんじゃない?」
「む〜ありきたりでつまんないなぁ……まあそれでもいいけどね、私の名前は、斉川六花。みんなには六花って下の名前で、一部では六花亭と呼ばれてたりするよ」
六花亭といえばバターサンドで有名な製菓会社だ。
北海道に行った人の多くが買って帰るんじゃないだろうか、詳しくは知らないけど。
「出身校は、鮎川君と同じで趣味は……人間観察は得意かもっ。あとは、しいて言うなら最近、料理に挑戦してるよ。何か一言……う〜ん…スリーサイズ気になる?」
こちらを見て唐突にスリーサイズの話題をきりだしてくるのには驚いた。
肘をついてため息を漏らして止めとけと言外に伝える。
「璃奈さんに負けちゃいそうだから止めとくね。これから達希くんと一緒に、なるべく来れる日は来るからよろしくねっ」
最後にビシッと敬礼をして六花は自己紹介を終えた。
六花に次は僕にするのか璃奈さんにするのかを問うべく目線で送るとその意図を察したのか
「次は、達希くんお願いっ」
と言った。
「僕の名前は、鮎川達希。出身校は、この中の三人がすべて一緒だよ」
えっそうなの!?と六花は目を丸くした。
僕もどこかで見聞きした名前だった気がして中学時代のクラスの連絡網みたいなのを探して、その名を見つけたのだ。
「趣味は、読書とか映画鑑賞とかかなって言ってもそこまでディープじゃないよ。璃奈さん、改めてよろしくね」
自分でも当たり障りのないことを言ってるなと思いつつ、こんなもんでも十分だと思った。
「じゃあ、最後は璃奈さんね」
六花がそう言うと璃奈さんが、おどおどしだすがおとなしく見守ることにした。
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