第5話
「鮎川さん、また届けて欲しいけど頼まれてくれますか?」
緊急の書類があるとかで、山城先生にまた呼び止められた。
先生の持つ封筒は前回ほど厚くない。
特に断る理由もないので了承した。
「わかりました」
「ありがとう。でもこれ、ちょっと注意点があってなるべく早く集めてしまいたい配布物なの。だから、明後日の朝には回収してきてほしいの。今までは、保護者の方が届けてくれてたのだけれど、それだと保護者の方の都合もあるからいつ届くかが分からないの。なので面倒かもしれないけれどそれも含めてお願いしますね」
了承させて断れない雰囲気にさせておいてから少しばかり面倒なことを付け足すのか……策士っ!と思わないでもないが、引き受けたのを断るのは少し違う気がした。
というか、引き受けざるを得ない雰囲気だ。
先生は、封筒を渡すとさっさと去っていく。
「達希くんー、一緒に帰らない?」
後ろから声をかけられた。
いつもは、友人の桃川さんとかと帰ってるはずなのに……。
「なんで?って顔してるね。それとも私と帰ることが不服かな?」
目立ちはするけど不服ではない。
「そんなことはないよ……じゃあ、帰ろっか」
「うんっ!!」
普通の男女の友人同士っていう距離間でないのは謎だけど……相変わらず背中に突き刺さる殺気にも似た何かを感じながら昇降口に向かう。
斉川さんの家は僕の住む地区の隣の地区でだいたい徒歩五分くらいの距離がある。
「そういえば、さっきもらってた封筒はどうしたの?」
「あ、あれか…。芹沢さんってわかる?」
もしかしたら学校来てないから知らないかもしれないけど。
「芹沢璃奈さんだっけ?」
知っているのか……名簿みてクラスの人の名前覚えたって言ってたもんな。
ちなみに僕は多分、クラスメイトは半分の名前を憶えていればいいほうだと思う。
「そう、芹沢さんの家に先生から頼まれて書類とかを届けに行ってるんだ」
「……女子の家に上がってるってこと?」
六花は、少し面白くなさそうな顔をしている。
「うん、そういうことになるね。説明しなきゃいけないこともいろいろあるからお邪魔させてもらったよ」
「……達希くん、私の家に寄ってかない?」
どうしてそうなる……。
「斉川さんの家に寄ったら遠回りになるかな」
「……芹沢さんの家には行くくせに付き合いの長い私の家には来ないんだね?」
六花の周りになんだかどす黒いオーラが出ているような気がするが……。
「いや……女子の家って上がりづらいし……用でもなきゃ多分いかない……」
「へー……じゃあ、そのうち用を作ってあげるよ」
訝しむような顔を一瞬した後、斉川さんはそんなことを言う。
「無理しなくて大丈夫」
「無理なんかしてないよっ!!あ、そうだ……私も今日、芹沢さんの家に行ってもいいかな? 学級委員長としてあいさつをしなきゃいけないから」
そんな義務はないと言おうとしたが、なんだかそれも気の毒に思えたし仮にもコミュニケーションが苦手だろう芹沢さんのことを考えればそれはそれでいいかもしれないと思った。
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