第4話 小さな一歩を踏み出したい

 人とあまり話さない私にも鮎川くんが本気でその言葉を口にしていることは分かった。

 彼が部屋から帰っていったあと、そう思った。


 「姉さん」

 「…何?」


 妹はベッドに横になっていた私のそばに来る。


 「今、鮎川先輩のこと考えてたでしょ?」

 「っ……ぅぅぅ……」


 考えてることが見透かされて恥ずかしいのか頬が熱くなるのが自分でもわかった。

 恥ずかしいというよりは、それが男性のことだからかもしれないけれど。


 「やっぱそうだよね。あの先輩、いい人だもん。私もできることなら一緒に生徒会でお仕事したかったなって思う」

 

 妹が真剣になってそんなことを言うから帰り際に鮎川君が言ってた言葉が頭の中で再生される。


 「先輩の帰り際の言葉、ほんとに姉さんを心配してたよ?」

 「…そう、かな…」


 そうだよねって言いかけたけどそう言ってしまうと自分がそう思っていたっていうふうになるからそうは言わない。

 妹のことだから多分いろいろ勘繰りしてくるだろうし……それに、この気持ちは何となくほかの人に知られたくないし踏み込まれたくもなかった。


 「あれは絶対そうだよ!! あんなに姉さんのこと思ってくれるのって私のほかには先輩くらいだよ」

 

 部屋にあった鏡に自分の顔が映るのが見えたけどやっぱり赤くなってる……。

 でも、どうしたら今すぐにこの赤らみをなんとかできるのかはわからなかった。


 「姉さん、よかったね」


 そういうと智奈は自室に向かっていった。


 「…学校……」


 中学校時代から……気が付いたら休みがちになっていた。

 私は、こんなんだから友達といえる人はいなくて……自分でも何とかしなくちゃなっていう自覚はあった。

 でも、こんな悩みを人に話すのは恥ずかしかったし相談できる人も親と妹くらいしかいなかった。

 今、私が通っている学校――私の席がある学校といった方が正しいのかな――には私の学力に適していたからそして、通学にも時間がかからないからって理由で選んだ。

 友達がいない学校生活は楽しいものじゃない……そんな考えもあってか通学に時間がかからない、つまり孤独な学校生活の時間を短くできるなんて考えがあったのかもしれない。

 鮎川君……彼は多分、いい人。

 コミュニケーションが極度に苦手な私からは、恥ずかしいからこのままずっと言えないだろうけど友達になりたいって思う。

 

 「……高望みしすぎだよね……」


 人と接する機会の少ない私は、少し優しくされただけで恋愛感情を抱いてしまうかもしれないけれどそう言った感情を抜きにしても友達になりたいかな。

 それを達するには多分


 「いかなきゃだめかな……」

 

 カーテンと窓を開けて夜空を見上げる。

 流れ星は、街明かりが明るすぎて見えないけれどっきッと流れているはず。

 胸の前に手を当てて祈る。

 ―――小さな一歩を踏み出す勇気をください。

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