第14話 ボブの強請

「転生先がわかればやりようはあるかもしれない」

 ボブはそう考えた。

 メアリーが死ぬ前に最も会話したのは自分かも知れない。少なくともその死に関わった会話という意味では間違いないだろう。

 もしかしたらあれらの会話の中にメアリーの生活をうかがわせるものがあるかも知れない。


 ボブはメアリーがセラピストとして自分と面談したときの会話記録を開示請求した。セラピストの業務内容は秘密とされるところだから却下された。

 かなり躊躇はあったが2週間後。ボブはジョンの実家を訪問した。

 約束もなく平民のボブが突然行っても公爵に会えるはずもないのだが、ボブはそんなことは逆に思い至りもしなかった。

 門番はボブが名乗ると困った顔をした。

「あなたがねぇ」

 門番は同僚と顔を見合わせた。屋敷ではジョンは腫れ物扱いだった。態度も良くないし、正直なところ嫌われていたのだ。

 ところからそのパラレル地球からきたボブは見た目にも爽やかな若者だし、話す口調も丁寧だった。

「あのジョン様と同じ人物とは……」

「しかし公爵様に会いたいと言われても」

「念のため確認だけでもしていただけないでしょうか?」

 ボブは申し出た。

「ただ追い返したとあってはもしかしたら問題になるかも知れませんよね。ボブ、ジョン’がジョンに関連したことで一つだけお願いがある、と」

「まぁ、確認するだけなら大事にはならんだろう」

 門番はしばらく考えていたがうなずいた。


 しばらくして門番は驚いた表情をして戻ってきた。

「10分間だけだがお会いになるそうだ」

「ありがとうございます」ボブは門番に頭を下げた。

「いや」門番は困った顔をした。これが本当にジョンの……。こっちが公爵の息子だったら良かったのに。

 ボブは執事に連れられて公爵の執務室へ入った。

 公爵は忙しそうに机に向かっていた。

「申し訳ないが忙しいのでね。仕事をしながらの時間とさせてもらう」

「突然の申し出に時間をとっていただきありがとうございます」

 公爵は素っ気なくうなずいた。「要件を」

「お忙しいと思うので端的に。慰謝料を請求に参りました」

 公爵は一瞬だけペンを止め、チラリとボブを見た。「ジョンのかけた迷惑についてだな。正直なところ疫病神のような存在だな、あれは。幽閉してもまだ決着しないとは。まぁこれで始末がつくならそれもよかろう。幾らだね?」

「お金ではありません。私が幼少期に受けたセラピーの全記録を開示して欲しいのです。地球裁判所に圧力をかけていただきたい」

 公爵は完全に手を止め顔を上げた。

「どういうことかね?」

 ボブは経緯を説明した。

「そして、その目的をジョンに伝言をお願いします。私はメアリーさんの転生先を見つけて転生します。ジョンには絶対にできない。でも私はやり遂げます。これが私からジョンへのお返しです」

 公爵はボブをまじまじと見た。

 公爵として様々な人間を見てきた。人を見ることこそが公爵の最も重要なスキルと言ってもよい。

 ボブは真剣で、かつ必ずやり遂げる者に共通の何かを持っていた。

 これほどの人物とは思っていなかった。

「……。惜しいな。まぁよい。それぐらいならば私の力でお及ぶだろう。それとジョンにも伝えよう。それは苦しむことだろうな」

 ボブは深々と頭を下げた。「ありがとうございます。無理筋なお願いであることも承知していました。ここで始末されるかもしれない、ぐらいには覚悟をしてきたつもりです」

「そこまでして会いたいのかね?」

「私は転生して、ここで家族に恵まれました」

 ボブは周りを見ました。

「豊かとは言えないかも知れませんが、貧しいわけでもありません。両親も姉も弟もよくしてくれます。でもここの世界での原点にセラピストとしてのメアリーさんがいるんです。

「それを探すのはもはや刷り込まれているようなものなんです」

 公爵は重々しくうなずいた。「理解できぬ話ではない。つくづく……。1週間以内には記録が届くようにしよう。幸運を祈るよ」

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