第13話 メアリーを探して

 ボブ=ジョン’は地球裁判所にジョンの暴挙について訴え出た。そして行動制限をかけるように申請を出した。本来、地球裁判所は地球と<RW>間の問題を扱うところだが、ボブはその存在そのものが特殊であり、いわば彼の管理は地球裁判所預かりというところがあったので、この訴えも受理された。

 地球裁判所の権限は絶対的なものがある。何しろホストコンピューターのある地球と連絡がとれるのだ。<RW>上の存在にとっては核兵器以上の脅威でもある。

 地球裁判所の問い合わせを受けた公爵は平然と、内心では余計なことをしてくれた息子に激怒し、請求を受諾した。すぐにジョンは田舎の別荘に幽閉された。


 ボブはなぜかセラピストの女性のことが頭から離れなくなっていたので、申請のついでにセラピストについて調べることにした。

 地球裁判所のデータ管理はその成り立ちもあって、対象者の生死にかなり大きく左右される仕組みになっていた。生存していると非常に高いセキュリティが保たれる一方で、死亡すると多くが公開されるのだ。

 ボブはさして時間をかけずに、あのセラピストがメアリーであることを知った。メアリーとはジョンの生前の恋人でその殺害の有力な容疑者であり、ジョンが犯人と指名した相手だ。

 そしてそのメアリーは既に死亡しており、どうやらセラピストとしてボブを訪問していた後に死亡したようだった。またこの<RW>には転生していなく、どこへ転生したのかはわかっていない。このためにジョンの訴追も宙に浮いてしまって、そのまま放置されていた。

 調査履歴から同じことをジョンが知っているだろうこともわかった。ジョンがボブに執着するのはもはや彼にとっての係累が残っていなかったからかもしれない。


 調査後数日、ボブはどこかぼうっとしていることが多くなった。

 メアリーはセラピストとしてだが、ボブの幼少期に唯一、外部から接触のあった相手だ。周囲にいた身の回りの世話をしてくれた乳母や執事らも良い人たちで家族同然だった。それに対し外部からのメアリーはまた別の存在だったのだ。

 ジョンの元恋人で殺人容疑者。

 ジョンとボブは並行世界の同一人物。

 運命めいたものを感じるのも当然だろう。

「だが、会おうと思ってももう生きていないし、ここへも転生していない」

 ボブは呟いた。

「転生。そう、異世界転生するんだ」

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