第8話 メアリーとジョン’(1)

 時は少し遡る。

 メアリーはジョンの死後、とても悩むこととなった。

 ジョンはなぜ、どのように死んだのか。メアリー自身は自分が犯人でないことは承知していたので、その点から疑いがあった。

 一方で状況証拠?からメアリーが犯人ではないかと疑うマスコミやSNSでの過剰な取材、勝手な情報発信はたいへん酷いものであった。

 だがここでいう悩みはそれでなく、ジョンとジョン’のことだった。

 

 ジョンが<RW>に転生したことは驚きでなかった。ジョンはゲームをする人手はなかったが、少しだけジョンに誘われて<RW>で遊んだことがあったからだ。むしろあれがジョンの唯一のゲーム経験であることはメアリーには十分に予想できた。

 だからある程度の時が経てばすぐにジョンと話ができる。メアリーはそう考えていた。だからジョン’が現れて、いわば2人のジョンが転生したことにはメアリーも驚いた。

 転生についての地球と<RW>の理解からパラレル地球からの転生であることはある程度、推測された。そういった背景なしにジョンと区別のつかないジョン’の存在はメアリーが関心を持つのは当然のことだったかも知れない。

 ジョンの生前、メアリーとジョンとの間にはすれ違いが多かった。

 メアリーからすれば仕事やアクシデントでのすれ違いでしかなくて、連絡もとれていたから、ただの逢瀬が減っただけのことだった。仕事が忙しかったこともあり、ジョンとの関係を疑うところもなかったので、ある意味で安心していたのだ。

 だがジョンが死ぬ間際、どうやらジョンは不安に感じているらしいということは少ない連絡の中で察することができていた。メアリーはできるだけ時間を作ってジョンと会おうとしていた最中のジョンの死亡だった。

 そのもしかしたら片方向ではぎこちなくなっていたジョンとそっくりなジョン’。それがどんな人間なのか、知りたいと思ったのだ。


 メアリーは少ない伝をだとって転生した<RW>にいるジョンとジョン’に連絡をとろうとした。

 その結果、ジョンとは連絡がとれなかったが、ジョン’と連絡がとれたのはある意味では当然の帰結だった。

 ジョンはずっと不機嫌だった。話せるようになる前から扱いにくい幼児という扱いだった。なにかというと不満げに声を荒げ、態度も横柄だった。

 ジョン’はいつもにこやかだった。転生者にしたってこれほど手のかからない、愛想のよい幼児も少ない。それが養育に関わった担当者らの意見だった。

 だから、メアリーが連絡をとろうとしたときにジョンとTV会議方式だとはいえ会わせることは担当者の誰も考えられなかった。

 一方でジョン’の担当者らは会話をモニタリングすることや会話内容に一定程度の条件をつけた上で許可をすることは容易だった。


 メアリーはメアリーだと名乗ることは認められなかった。ジョンらの特殊ケースに関連したセラピストという名目でTV会議形式でジョン’と対話することが認められたのだ。

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