第7話 ジョンの誤算
ジョンの申し立てが受理された後、しばらくしてジョンは地球裁判所に呼び出された。申し立ての結果についての中間報告があるとのことだった。
ジョンが通されたのは小さな事務室で担当官が1人いるだけだった。殺人事件は大事だと考えているジョンにとって矮小化されているような気持ちになった。
「これは殺人事件の中間報告なんですよね?」ジョンは嫌みっぽく言う。
担当官は肩をすくめた。「捜査は地球で行われていますのでね。いわばこれは伝達のみなわけです。私が一人で担当すればよいことですな」
「まぁいいでしょう。それで」
「あなたの申し立てによりメアリーさんが容疑者となりました。いえ、これは正確ではありませんね。もともとメアリーさんは容疑者であったわけだから」
「それは?」
「当然でしょう?」
担当官は聞き返した。
「あなたはいわば密室で殺害されていた。部屋の鍵を持っているものは限られている。人間関係の面でもギクシャクしていたという情報のあるメアリーさんが最重要の容疑者であったことは当時の地球のマスコミが散々報じたところですよ」
「なるほど。それなのにまだ逮捕されていなかったと。それはずいぶんと、こう言っては何ですが、捜査がいいかげんだったのか、力量不足だったのか」
ジョンは呆れたように言う。
「しかもその通りなんですからね。私はメアリーに殺されたんです」
「その申し立ては受理しています。それに捜査はしっかりと行われました」
「逮捕していないのに?」
「逮捕状は出ています。あなたの死後10ヶ月後ぐらいですな」
担当官は書類を確認していった。
「犯人に逃亡のおそれもなく慌てる必要もなかった。証拠をしっかりと固める方が現実的な状態ですからね」
「逮捕は」
「死者は逮捕できないんですよ」
担当官はかぶせるように言った。
「いいですか。メアリーさんはずっと悩んでいる様子だったと捜査官らの記録にあります。それが恋人を失った悲しみなのか、殺人によるものなのか、それはわかりませんがね。ともかくメアリーさんは逮捕状の出る直前に亡くなっているんです」
「それなら……」
「メアリーさんは<RW>に転生していません。そもそも<RW>で遊んだという記録が非常に少ない。我々は<RW>に転生することについてはある程度、いわば神々の意向を承知しています。ですが<RW>へ転生しない場合のことはまったくわからないんですよ」
ジョンは目の前が真っ暗になった。
ジョンの目論見はメアリーを追い詰めることにあった。
当時、なかなか都合があわずにすれ違いが多くなっていた。ジョンはメアリーの心が離れていくと感じていた。永遠につなぎ止めるには……。それがこの<殺人事件>の要因だった。
メアリーを犯人に仕立てて追い詰め、<RW>へと転生させる。
転生後にも積極的に関わりをもり、メアリーを追い詰めて精神的に彼に依存させる。そのための第1幕が<殺人事件>だったのだ。これで犯人と断定されれば、メアリーの記憶も揺すぶられるだろう。最後には洗脳的な状態に持ち込めると考えていたのだ。
だがそのメアリーが<RW>へ転生してない?
それではジョンの目論見はまったく果たせない。
「そんなわけがないでしょう。私と同じように転生をまだ把握できていないだけでしょう? 私はメアリーと<RW>で遊んだこともありますよ」
担当官はいぶかしげにした。「犯人だと指名しているメアリーさんが<RW>に来ないことは、あなたにとってはむしろ歓迎すべきことと思っていたんですがね」
「それは、もちろん」
ジョンは動転した。
「もちろんそうかもしれませんが、どうして私を殺したのか。それをきちんと説明を聞きたいというのはおかしなことではないでしょう?」
「もちろんです。そういう考えもありますな。
「お忘れではないと思いますが、あなたが死亡してからずいぶんと経過しています。通常の転生はずっと前に判明するのですよ。あなたですら二重だっただけで判明しなかったわけではないわけだし」
「そんな」
「メアリーさんが<RW>へ転生していないと言うことは我々の調査結果で確定しています。これに疑いの余地でもあれば別でしょうが、そのようなものはいっさいありませんよ」
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