第5話 ニュース報道「偽物はどっちだ?」と両親の反応
地球からのニュース報道。
とあるマンションの前に3次元カメラを構えたカメラマンとキャスターが多数陣取っている。ドローンを飛ばそうとして警官に撃ち落とされている者までいる。
「東京都内にあるマンションの前から中継しています。殺人事件の被害者の恋人で重要参考人と目されているMさんが住んでいる部屋があります。マンションの前には多数の報道陣が集まり、警察も出動しています。近隣の住民の生活が大きく疎外されているのではないかと……」
<RW>内からの動画配信。
とある病院の前に水晶などの宝石をはめ込んだ杖を持った魔術師が鏡に映像を投影している。この鏡の映像が現世へと転送される仕組みになっているらしい。
「○○病院前から中継です。この病院には二重にカウントされた転生者の片方が隔離されている模様です。この人物の詳細は公表されていませんが、匿名の病院関係者の話では……」
この珍事に現世も<RW>も沸いた。
<RW>への転生が明らかになってから現世では世界中で殺人事件が減少していた。なにしろ被害者自身による供述が実現されてしまうため、検挙率はどの国でもほぼ100%になっていた。もちろんそれで0になったわけではないがずいぶんと減ったことも事実であった。
そんな中、<RW>大元の国である日本で発生した殺人事件。その被害者が単に転生したのでなく2人いるというのだ。第三者からしたらこれは好奇心を喚起される事件だった。
連日、両方の世界で報道が過熱化していった。
しかも地球と<RW>とは通信ができるので双方の報道は双方で配信されている。転生元と転生先が連結して騒動は拡大していた。
現世ではメアリーが報道陣に囲まれていた。家を出ればすぐに記者に取り囲まれ、家にこもっていても様々なコンタクトを求める連絡が届いた。
<RW>では2人のジョンを将来、確実に選別できるようにするためと報道陣から守るために2人を隔離することになった。当時はこういったことは想定されていなかったので、保護名目での隔離となっていた。
隔離は将来の本人識別を目的としていたので、当人に余計な情報を入れないことが徹底された。実質的に面会は0、<RW>での生みの親(転生者ではなかった)でさえ会えず、様々な情報との接触も禁じられた。
特殊なトレーニングを受けた教師と介助者が2人を別々に育成した。
ある屋敷では統一政府からの使者が貴族と面会していた。ジョンの生家だ。
この世界そのものは剣と魔法のファンタジー世界であり世界を統一するような組織を有さない。だが現世と<RW>をつなぐための統一政府が存在しているのだ。いわば<RW>のシステムとしての政府であり、そこで働く者もいるのだ。
一方で貴族がいる。国王から領地を認められた貴族には領地における絶対的な支配権がある。領地の規模・重要性などから貴族にも上下があるが、ここは公爵領。つまり最重要拠点の一つだった。
使者は要衝を担う貫禄のある公爵の冷たい眼差しに汗をかいていた。
貴族は使者の説明が終わると言った。
「つまりこういうことだな。息子は転生者。だがその身元は2人の赤子が同時に確認された。つまりどちらかが偽物だ。その判別には赤子の成長後の検査が欠かせない。それまでに様々な情報に触れてしまえば判別もできなくなるので隔離すると」
「は、はい。そのようになります」
「それだけのことならば面会も不要であったな」
「しかし、ご子息のことですので。最大限の配慮をさせていただこうと」
「1年も隔離されるのであれば我が実子として育成できるとはいえん。放逐するというわけにもいかんが、妾の子のような扱いとするしかあるまい。重要ではないということだ」
貴族は立ち上がった。
「妻には私から説明しておく。ご苦労であった。養育費は支払おう」
「ご、ご子息の養育は統一政府が責任を持って行います」
「公爵家の血筋に見合った環境としてもらわねばならぬのでな。資金は二人とも公平に使うように」
「ご子息以外にも?」
「そうだ。ここで一方だけに贅沢をさせたなどとあっては我が公爵家の名に泥を塗るようなもの。同じ境遇に置かれた両名は同じく扱うのだ。よいな?」
それは質問ではなかった。使者は慌ててうなずいた。「ご配慮ありがたく存じます」
公爵は鼻を鳴らすと立ち去った。
もう一人別の使者は公爵領の中級の町でパン屋を営む夫婦と面会していた。こちらがジョン’の生家だ。
「息子に1年も会えないのですか!?」
使者の説明を聞いて夫婦は叫んだ。
「なんでそんなことに!」
「今ご説明させていただいたように、息子さんは殺人事件の被害者である方の転生であると考えられると同時に二重認識という状態にあります。このため慎重に身元の確認を行う必要があるのです』
「そんな理由を言われても、息子に会えないことがどんなことかおわからにならないのですか!?」
使者は苦渋の表情を浮かべた。「我々もお二人の心痛はお察し申し上げます。私も2人の息子がおります。そのお気持ちは少しなりとて想像できるつもりです」
「それでも駄目だと」
「たいへん申し訳ありません。ですがここでしっかりと確認をしませんと、息子さんの将来が危険にさらされることも考えられます。もし殺人事件の被害者だとすれば、まだ判明していない犯人からの魔の手が伸びる危険があるのです。我々は隔離すると共に最大限、息子さんを守ります。どうか、その点をご理解ください。ここで、町中の平民の家でそこまでの防衛は難しいのではありませんか?」
夫婦は顔を覆った。
「さいわい、もう一人の赤子の両親から多額の資金が提供されています。両方の赤子を均等に扱うこととのお言葉をいただいています。決して息子さんには貧しい思いはさせません」
「せめて私たちの写真を息子に」
「それはできません。外界の情報を一切遮断することこそが目的になります」
夫婦は崩れ折れたが、命の危険まであるとされては、やむを得ぬ事と承知するしかなかった。
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