第4話 二人の<転生者確認手順>結果

 異世界転生先が超量子コンピュータによるゲーム世界<RW>となってしばらくして、転生者の<身元確認>が大きな社会問題になった。どんなとき・どんな状況でも現状を上手く利用して悪いことを考える者はいるものだ。特になりすましは大きな問題となった。

 例えば転生者が富豪になりすます。<RW>では現世の財産権を失うのだが、遺言状を一度だけ書き換えることが認められることになっていた。例えば脅迫されて遺言を残したような場合に転生後の犯人告発と共に財産を取り戻すために用意された制度だった。これを悪用して遺言状を撤回・変更し現世の協力者へ振り込ませるといった犯罪が生じたのだ。

 他にもアイドルと入れ替わろうとするなどの事件が起きた。

 ある意味でこれは墓暴き以上に死者を冒涜するような性質もあったので、その対策は急務であった。

 そこで考えられたのが<転生者確認手順>であった。

 これは生前にある色のパターン、全32色3段階を決めておくことで機能する。これを機密データとして保管しておく。

 これを転生者が当てることで生前の身元と照合するのだ。色のパターンにしたのはできるだけ出生後短期間で回答できるためだった。なにしろ頭の中身は転生者。ここで想定されるのは<RW>の利用が認められる一定年齢以上になってから転生した者だけであるが、一方で体は乳幼児である。発話などの明確な意思表示はできないのだ。

 そこで見せられたカラーカードに対する生体反応で照合しようという仕組みになっていた。しかも死亡後転生するまでの期間は固定ではないが一定の幅の期間であることが観測されていた。

 おおよそこれらで出生後1年以内に確認できるようになっていた。

 もちろんこれも<RW>の機能の一部として実装された。何しろカラーコード確認の手順でカラーパターンが漏洩してしまってはいけないのだ。非常に機密性の高いデータとして厳格な管理が必要だった。


 <RW>へ意図的に転生してきたジョンは早期に身元確認をし、メアリーを犯人として告発するつもりであった。出生後もできるだけ体を動かすなどして半年後には<転生者確認手順>を受けていた。

 それでもすぐに話ができるのではないが、犯罪被害者は優先的にその後のケアを受けられる。具体的にはまだ身体の育成度合いから発話は難しいがはい・いいえは明瞭に意思表示できるようになる。それを使った単語選択式の対話システムが用意されているのだ。殺人事件の被害者とされているジョンは目安として1歳でコミュニケーションがとれるように準備が進められた。


 パラレル地球でジョンよりも少し前に死亡したジョン’も<転生者確認手順>を受けることとなった。異世界転生を前提としていたわけでないために何の準備もなかったことが影響したのか、平均よりも少し遅い、出生後10ヶ月での検査となった。

 それでも死亡時期の違いからジョンの検査時期と数週間違いでしかなかった。

 ジョン’にとって異世界転生は想定外の事件であった。何の心構えもできていなかったので出生による衝撃は彼の様々な記憶を失わせることになってしまった。だがこのころにはまだ異世界から転生してくるということはわかっていなかった。なにしろ異世界転生でやってくる人数は非常に少ないのだ。<RW>とそっくりなゲームのあるパラレル世界からでなければならないし、そのゲームに最も時間を費やしていなければならない。<RW>は超量子コンピュータがあるからこそ面白いリアルなゲームだったのであり、そうでない世界では人気のゲームにはならなかったのだ。

 そのため異世界からも転生してくることは、ジョン’が後日証明し、世界に知らしめることになる。

 だからこの時点では出生者は転生者かそうではないかの2択で考えられていた。

 ジョン’は多くの記憶を失ったため自分に前世があることは認識していたが、その詳細はあまり明確でなかった。転生時に<女神>に会っていたがその記憶もおぼろげなものになっていた。

 そんな中<転生者確認手順>を受けたジョン’であったので、単純に好きな色に反応するということになった。そこにすり込み的に<女神>の言葉が影響を及ぼした結果、ジョン’はジョンのカラーパターンを正解してしまった。


 そう。数週間違いで殺人事件の被害者であるジョンが2名、転生してきたと確認されてしまったのだ。

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