第3話 二人のジョンの転生
ぼんやりとした光の中でジョンは目を開けた。
目の前にはいささか不服そうな雰囲気を称えた女性?が立っている。
あぁ、これが転生するときに出会うという神なんだな。ジョンはそう思った。
女性に見えることから通称<女神たち>と呼ばれているいずれかの存在だろう。ジョンはその詳細は調べていなかったが、転生者からの情報で<神々>については詳細なデータが集められ、全19柱(?)の存在に現世では分類されているのだ。もちろんその分類が正しいかどうかは検証が難しいが、それだけ転生者の記憶データを集約・分析していたのだ。
ジョンは思った。本当に死者は転生できるらしい。<RW>からの情報で知らされていたとはいえ、自分が死んで本当に転生するのか、それは実体験でしか確認できないところだった。
「あなたは転生します」
その女性は不服そうな雰囲気を隠すことなくぶっきらぼうに言った。
「あなたのような悪用前提で転生するのは好ましくありません」
「……それについては謝罪するしかありません。ですが私にはこれ以外の方法はなかったんです」
「そういう道徳的な話ではありません。転生を人がシステムのように利用することも、ましてはそれを己の復讐心を満たすために使うなんてことが不愉快だというのです。ですが、これも定め。あなたには転生してもらいます」
ジョンはうなずいた。転生前のこの場では実質的に人間の言うことは通らない。それはこれまでの転生に関するデータから明らかだった。ましてジョンは<女神>の言うように悪用している。転生させてもらえるだけで十分だった。
それに<女神>もこれ以上、何か話をしようという気はなさそうだ。下手に話を続けて転生をなしにされては困るのだ。ジョンはおとなしく黙っていた。
「それではさようなら」
<女神>が言うとジョンの意識は急激に薄れた。
そのとき<女神>が残忍な笑みを浮かべていたように見えたのは被害妄想のせいだろう、ジョンは薄れいく意識の中でそう思った。
ジョンが転生して消えた後、<女神>は硬い表情で鼻を鳴らした。
「思うとおりにいくとは思わないことね」
――――――――――
<RW>を作り上げたのとは違う地球。それはパラレルワールドと言われる世界。
このパラレルワールドの地球でも死者は異世界転生していた。<RW>のないこの世界はむしろ正統派の地球とさえ言えるだろう。
当然、最も時間を費やしたゲームの世界へ転生する。
話は変わるが<RW>は5つのエリアに分かれている。
エリア間の移動は非常に制限されていて基本的に不可能になっている。
5つのエリアは太陽系の惑星(その軌道)単位で区切られていた。
火星とそれより外側はいわゆる宇宙ものSFの世界だ。火星軌道上には宇宙船の基地もある。恒星間移動できる宇宙船が存在する世界で、異星人も存在する。むしろ地球はど田舎扱いといってもよい。
月はスチームパンクの世界。地球と19世紀末ぐらいまで同じような歴史を辿り、そこで電気の普及の代わりに蒸気機関が普及した世界だ。あまり科学的な進歩はみられないかわりにゲームとしてはバランスよく技術が存在していた。広域破壊兵器のあるような世界観だとなかなか成り立たないが、ここにはそのようなものはない。
金星と水星は別エリアといわれているが、その情報は現時点では知られていない。噂によると実は金星と水星は今後の展開用に確保されているだけで、実体はないのだという。逆に<RW>のテスト場ではないかなどという噂もある。
地球はいわゆるファンタジー、剣と魔法の世界だ。最もメジャーな世界となっている。地形は地球そのもの(ユーラシア大陸などがある)だが、それ以外は地球を継承していない。
そしてパラレルワールドには<RW-地球>とそっくりなゲーム<FRW>があった。
話を元に戻すと、パラレルワールドにもジョンがいた。このパラレルワールドのジョンをここではジョン’(ジョン ダッシュ)と書くことにする。
ジョン’は<FRW>に最も時間を費やしていた。
そんな偶然の重なったジョン’はジョンと同じ時期、少しだけ早く事故死した。
ぼんやりとした光の中でジョン’は目を開けた。
目の前には何かを企んでいる悪女のような雰囲気を称えた女性?が立っていた。
「あなたは死んで転生します」
その女性は唐突に言った。
「転生する前に一つ。あなたの好きな色の順番を確認しておきましょう」
その女性は更に唐突に意味がよくわからないことを言い出した。
「えぇと」ジョン’は戸惑った。
だがその女性は有無を言わさなかった。
「ここで人間の質問は認められていません。あなたの好きな色は緑・白・灰。これでよいですね?」
ジョン’は目を丸くした。「確かにその通りです」
「色を大切にすることをお勧めします。それはあなたの人生に大きな影響を及ぼすでしょう。
「これからあなたは異世界へ転生します。異世界で赤子として改めて出生するのです。あなたのよくやったゲームとそっくりな世界ですから、そんなに苦労することもないでしょう。よかったですね」
「異世界へ? <FRW>ですか? 転生?」
ジョン’は鸚鵡返しに言った。異世界転生ものという分野の小説はジョン’も読んだことがあった。それもゲームの世界。テンプレあるいは王道といってもよいかも知れない。
「なにか……スキルかなにかを与えていただけるのでしょうか?」
女性は首を振った。「そんなに都合のよいものはありません。異世界にも世界の安定もあればそこに住む人たちもいるのです。他にも転生した人は多数います。転生者に特殊スキルなどあっては不公平でしょう?
「ですが現世での知識、それに好きな色を覚えておくことはあなたにとって何かよいことにつながるかも知れませんね」
「わかりました。第2の人生が与えられる。それだけでも幸運と思うべきですね。ありがとうございます」ジョン’はこの話題が相手の心証をよくしないことを悟った。
女性はうなずいた。「それでは転生します。さようなら」
<女神>が言うとジョン’の意識は急激に薄れた。
そのとき<女神>が酷薄な笑みを浮かべていたように見えた。「<あなた>によろしく」そうつぶやいたように聞こえた。
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世界設定と合わせて実質的な第2話となる第3話を公開しました。
2人のジョンがいよいよ転生します。
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