第2話 急接近する美少女
突然授業中に流れ出したエロゲのオープニングソングは、柚月さんのスマホの着信音だった。
柚月さんは教師に注意されていたが、「すみません、すみません」と頭を下げると、教室の皆は笑っていた。
誰もエロゲのオープニングソングだとは気づいていないようだった。
それから授業の内容が一切頭に入らないまま休み時間になる。
俺が「さっきのってエロゲの曲だよね」なんて柚月さんに話かけられるわけもなく、いつも通り『ライトノベル作家になろう』でお気に入りの小説を読んでいた。
「戸塚くん、それってもしかして『ライトノベル作家になろう』ですか?」
突然話しかけられ、驚きつつ振り向くと、柚月さんが笑顔でこちらを向いていた。
「えっと……」
「ごめんなさい。偶然スマホの画面が見えちゃって。私もよく『ライトノベル作家になろう』読んでるんで、話しかけちゃいました」
ヤバい……柚月さんが俺に笑顔で話しかけてきてる!
頭が真っ白になりそうだったが、俺は何とか冷静に返答できるよう、心を落ち着かせた。
「そうなんだ。柚月さんみたいな子がラノベ読んでるなんて、意外だね」
「もしかしたら、戸塚くんより私の方がたくさん読んでるかもしれません。ちなみに、今は何読んでるんですか?」
「『未来の貴方に、さよなら』って小説だよ」
「………………」
あれ、俺マズいこと言ったかな。恋愛ものの小説読んでるなんて、キモーいとか思われているんだろうか。
ここは嘘でも俺TUEEE系の作品を挙げておくべきだったか……
沈黙に耐えられず、俺は喋り続けた。
「男が恋愛ものの純文学読んでるなんて変かな、ははは……。でも『未来の貴方に、さよなら』は俺の中で特別で、連載が始まった二年前からずっと読み続けてるんだ。設定も面白いし、文章力も高いから、何で書籍化されないのかなあって思ってる」
普段ならこんなに饒舌に喋ることもないが、好きな作品のことだとつい語ってしまう、オタク特有の悪い癖が出た。
「作者にとっては二年間もずっと追い続けてくれる読者さんがいることの方が、書籍化されることよりずっと嬉しいことだと思いますよ」
「そうなのかな? 俺はたまにコメントするくらいの一読者でしかないけど、作者さんがそう思ってくれてるとしたら嬉しいな」
それからお互い好きな小説について語り合った。
柚月さんは俺TUEEE系も、悪役令嬢ものも何でもいけるようだ。
俺よりたくさん読んでいるかもと言っていただけのことはある。
「私、学校でラノベの話ができる友達がいなかったので、戸塚くんとこうやって話せて嬉しいです。もし良かったら放課後、駅ビルの本屋さんに一緒にラノベ見に行きませんか?」
「いいの? 俺なんかと一緒に歩いて」
「はい、戸塚くんと一緒に行きたいです」
こうして、放課後に柚月さんと寄り道することになった。
女の子と下校するなんて初めてだ。
放課後まで俺は、下校中に柚月さんとどんな会話をしようかと頭を悩ませた。
◇
「戸塚くん、それじゃ行きましょうか」
「うん」
休み時間に柚月さんと話していた時は全く周りが見えていなかったが、柚月さんと一緒に帰ろうとすると、クラスメイト達が驚いた表情をしているのが見えた。
そりゃ、ぼっちの俺が、学校一の美少女と下校しようとしていたら驚くよな……
教室を出て柚月さんの隣に並んで歩くと、女の子特有の甘やかな香りが漂ってくる。
同時に、俺より身長が10cm程低い柚月さんの横にいると、少し見下ろす形になり、女の子なんだなということを感じさせられる。
「戸塚くんって女の子と下校したことありますか?」
「いや、柚月さんも知ってると思うけど、俺クラスでもボッチだし、高校に入ってからは女子どころか、男子とも下校したことないよ……」
「私は女の子とは帰ったりしますけど、男の子と下校するのはこれが初めてです。なんだかドキドキしますね」
柚月さんはそう言っているものの、全然余裕そうに見えるんだが。
俺は周りを歩く男子達から睨みつけられてるし、別の意味でもドキドキしてるよ……
学校から駅ビルまでは歩いて5分弱。
間もなくして到着した。
エスカレーターを登って本屋に到着する。
「あ、『イチから始める異世界生活』の新刊出てるー!」
「柚月さん、こっちの『その奥の無限へ』って小説も面白いよ」
それから、お互いにお勧めし合ったラノベを一冊ずつ購入した後、近くのファースフード店で休憩していた。
そこで俺は意を決して、一時間目の着信音の件について切り込んでみることにした。
「柚月さん、一時間に鳴った着信音って『Pair』のオープニングソングだよね? 元はエロゲだけど、東都アニメーションがアニメ化したから、それを見てたとか?」
「いえ、原作の方をプレイしました。女の子がエロゲやってるなんて引いちゃいますか? 私もっとエッチなのもプレイしたことあります……」
柚月さんの口からエロとかエッチとかいう言葉が出てくることに、ドギマギとしてしまう。
「いや、全然変じゃないと思うよ。俺も今まで沢山プレイしてきてるし、エロゲの面白さはわかってるから」
「嬉しいです。ラノベだけじゃなく、エロゲまで戸塚くんと語れるなんて」
「俺なんかでいいのかな……ははは」
俺は学校一の美少女と会話ができていることだけで、もう満足だ。
だが、柚月さんからのアクションはこれで終わらなかった。
「あの、良かったら、明日私と一緒にエロゲ買いに行ってくれませんか?」
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