第3話 ぼっちの初デート

 昨日柚月さんは、買い物をしてから帰ると言って、ファーストフード店を出たところで別れた。


 家に帰ってからは、柚月さんに勧められて買ったラノベを読みつつ、柚月さんのことを思い出して、ベッドの上で悶えていたのだが、いつも通り深夜には配信をした。

 昨日は初めて一緒に下校するというシチュエーションで配信してみたのだが、コメント欄を見る限り、いつもより好評だった気がする。


 現在12時、柚月さんとの待ち合わせは13時に目黒駅改札前だ。

 

 何を着ていくか、ものすごく迷ったのだが、黒のスラックスを履いて、上は白シャツにベージュのカットソーを重ね着することにした。

 昨日配信が終わってから『デート 高校生 男子 5月』で検索しまくってできたコーディネートだ。


 昼食を済ませ、歩いて目黒駅に向かい、待ち合わせ時間の十分前に到着した。


「戸塚くん、こっちです」

「ごめん柚月さん、待たせちゃって」

「楽しみで早く来ちゃいました。えへへ……」


 凛とした印象があった柚月さんが、あどけない表情で笑っていて、めちゃめちゃ可愛い……

 

 そんな柚月さんは、水色のプリーツスカートに、花柄の模様が描かれた白のシャツをインしており、手には白の小さめのハンドバッグを持っている。

 足元はベージュのサンダルだ。


 低めだが、ヒールのサンダルは大人っぽさを感じさせる。

 身に纏っている洋服だけでも完成されているが、そこに綺麗な銀髪が加わることで、高校生とは思えないオーラが出ていた。


「柚月さん、めちゃめちゃ綺麗だね……」

「ありがとうございます……なんか恥ずかしい。戸塚くんもシンプルでいい感じですよ」

「……ありがとう。それじゃ行こうか」


 山手線に乗って、目的地の秋葉原へと向かう。


「柚月さん、そういえば、目黒駅集合にしちゃったけど大丈夫だったの? 俺が目黒に住んでるって言ったから合わせてくれたんじゃ……」

「いえ、私も目黒に住んでるんですよ。住み出したのは去年からですけどね」


 話によると、高校に上がるまではフィンランドに住んでいて、日本に来たのは高校に上がってかららしい。

 当然だけど知らなかった……


 話をしている間に秋葉原駅に着き、電気街口を出ると、土曜の昼時だけに人でごった返していた。

 俺達の横を通り過ぎる人達は、一様に振り返って柚月さんのことを見ている。

 

 銀髪の美少女ってアニメに出てきそうだし、秋葉原の人達にも受け良さそうだもんな。


「『STEINS;DOOR』とか『ラブライフ』で見た景色が見れて、テンション上がってます! 私、秋葉原来たの初めてなんですよ」

「秋葉原は買い物しながら聖地巡礼できて楽しいよ。それじゃ早速エロゲ見に行こうか」

「はい!」


 俺は柚月さんに秋葉原を案内しながら歩き、最近エロゲコーナーが移転してきた『ソフトマップAKIBA ソフト館』に到着した。

 そして、新品エロゲコーナーがある2階へ向かう。


 中に入ると、エロゲ売り場特有のムッとする空気に包まれる。

 これは一体なんなんだろう……


「わあ、すごい。エロゲがこんなにたくさん」


 エロゲ売り場に銀髪美少女はめちゃめちゃ目立っていた。

 周りの客の視線を集めまくっている。


「なんか柚月さんをこんなところに連れてきてるの、悪いことしてるみたいな気分になるよ……」

「何言ってるんですか。ずっとパッケージのエロゲを生で見たかったんです。やっとお目にかかれて感無量です」


 それから柚月さんは俺を置いて、店内を見て回っていた。

 そっちは凌辱ゲーコーナーなんだが……


「すみません、戻ってきました。パッケージで見るのとDL版じゃ、やっぱり全然違いますね」

「そうだね。ところで何か買いたいものは見つかった?」

「いいえ。戸塚くんのお勧めを買ってみたいなと思っています」


「そっか。えっと、今日発売のゲームなんだけど、『ヘンタイ・プリズム』ってゲームが面白いらしいよ。体験版はやったんだけど面白かった」

「じゃあそれにします。一緒にやりましょうね!」


 一緒にやる?

 んん……?


 そう言って、柚月さんは新作コーナーから目当てのゲームの箱を手に取り、レジに持っていった。

 レジの店員さんもこんな美少女がエロゲを買いに来て、さぞかし驚いていることだろう。


 店から出ると、柚月さんが今度は『書線ブックタワー』に行きたいと言うので向かったのだが、店の前に着くと、入り口には『戸塚さくら 1st ALBUM 発売記念握手会』と書かれた大きなポスターが貼られていた。


「私、戸塚さくらちゃんの大ファンなんです。抽選外れちゃったんですけど、近くまで来てみたくて」

「ああ、そうなんだ……」


 戸塚さくらの兄であることは、高校に入ってからは聞かれたことがないから、誰にも言ったことがない。

 果たして言っていいものか……


「お兄さん、こんにちは。さくらのイベントにいらっしゃるなんて珍しいですね」


 声をかけてきたのは、いつもさくらを家まで送り届けてくれているマネージャーさんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る