バーチャル彼氏をやってるぼっちの俺には10万人のバーチャル彼女がいる
碧井栞
第1話 着信音
「……明日も同じ時間帯に配信するつもりなので、良かったら聞いてください。おやすみなさい」
ゴールデンウィーク最終日、今日も無事に配信を終えることができた。
……ああ、もう限界来てるな。
俺――
ミーチューブ上で、バーチャル彼氏として活動しているVTuberがほぼいなかったのも相まったのか、一年で登録者は10万人を超えた。
でも、もう限界かもしれない。
バーチャル彼女が10万人もいておきながら、俺は彼女ができたことがないどころか、女の子と出かけたことすらない。
ついでに言うと、拗らせたオタクで、クラスでもぼっちだ。
つまり、本物の恋愛も知らなければ、女の子の気持ちだってわからない。
俺の恋愛知識といえば、ライトノベルやエロゲで得たものばかりだ。
今のところ視聴者には受けているようだが、ボロが出るのも時間の問題だろう。
何故苦しみながらこんなことをしているかというと、声優になりたいという夢があるからだ。
それは義理の妹のさくらの影響が大きい。
さくらは俺と同じ高校の一年生で、二年前からアイドル声優として活動している。
そんなさくらが出演する作品を見て、俺も声優に憧れるようになった。
もちろん、元々アニメが好きだったのもあるが。
けれども、さくらとはもう何ヶ月も口をきいていない。
反抗期で俺を避けている感じもするし、毎日仕事で忙しく、ピリピリとしているところに、なかなか声をかけずらいというのもある。
「お疲れ様」とでも一言言ってあげられればいいんだろうが……
さくらは家に帰ってからも次の日の仕事の準備をしているようだが、終わった後はストレス発散をしているのか、ちょうど俺が配信をしている時間帯には「ちょーーーまってぇぇぇええ!!」「えへへ…………えへ……えへ♡」「ヤバいっって! 死んじゃうっっ!! 萌え死んじゃうぅぅう!!!」といった奇声が壁越しに聞こえてくる。
さくらは昔から乙女ゲーが好きなので、それをプレイしているんだろう。
適度に息抜きができているようで、そこだけは安心している。
また明日から学校が始まる。
学校に行っても話す人もいないし、気が重い。
まさに五月病だ。
現実逃避するために、今週末発売される、学園もののエロゲの体験版をプレイしてから寝た――こんな学生生活、現実にはあり得ないと思いながら。
◇
翌日、朝のHRで席替えが行われた。
俺は窓際最後方の良席を確保。
でも、良いことはこれで終わらなかった。
「戸塚くん、隣同士よろしくお願いします」と眩しい笑顔を添えて丁寧に挨拶する美少女。
「こちっ……」と少し俺はどもってしまう。「こちらこそ……よろしく……」
――うわぁーびっくりしたぁ。
入学してから女の子に話しかけられたのなんて初めてだ。まあ、男子にもほぼ話しかけられないんだが……
彼女は
この銀髪は父親がフィンランド人だからだということを、誰かが話しているのを聞いたことがある。
白のセーラー服に銀髪がよく映えている。
身長は恐らく160cm程。
男だからどうしてもこんな見方をしてしまうんだが、胸は大きくて、Eカップくらいはありそう。
腰はキュッと締まっているのに、お尻はそれなりのボリュームがある――つまりエロい体だ。
学校中の男子が憧れていて、一年の時から告白された回数は数知れないらしいが、未だ誰もものにできていない。
そんな俺も例に漏れず、一年の頃から柚月さんに憧れている。
もちろん、俺なんかが告白なんて、もっての他だが。
間もなくして、一時間目の授業が始まった。
今日は古文の授業からだ。
授業が始まって三十分くらいが経った頃、突然大きな音が鳴り出した。
『消ーえる、にゅうーどうぐもー♪僕達は追いかけたー♪』
!?!?!?!?!?!?
俺は大いに混乱した。
巷で国家と親しまれている曲――二十年程前に発売された、エロゲのオープニングソングが突然流れ出したからだ。
俺も昔から好きで、カラオケに行った時には必ず――なんて言っている場合ではない。
周りを見渡してみると、隣の柚月さんが、あたふたしながらカバンの中に手を入れていた。
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