第3話 スタート

「で、お話しして頂けますでしょうか? 望月学園長?」


「ひ……待ってくれ円華! 薙刀をしまえ! せ、せめて言い訳をだな……」


 現在俺たちは学園長室で、姉さんが薙刀を突き付けながら茜を問い詰める光景を黙って見ていた。


「噓、でしょ? あの師匠があんな……」


「全く、流石姉さんだぜ!」


「え、えっと……学園長は生徒会長に弱いみたいだね。……ん? 今姉さんって」


 そんな会話をしながら、俺は気になった事を口にした。


「なあ、そう言えばさ。姉さんは兎も角、なんで二人共居んの?」


「忘れたの? ……カチコミかけるって言ったでしょ、Eクラスに向かったら先に悠馬が生徒会長に拉致されてたからそのままついてきたって訳。生徒会長が実は悠馬のお姉さんだったってのも驚きだけど、それよりも何でお姫様がここにいるの?」


「義理だけどね、確かにソフィアはどうしてここに?」


「悠馬が入学してたのも驚きだけど、Eクラスなのが納得できなくて悠馬に訳を聞きにEクラスに行ったら、直接学園長に聞きに行くっていう話が聞こえて悠馬が生徒会長さんに抱えられて猛スピードで去ってくのが見えたから……居ちゃダメだった?」


「い、いや。別にいいけど……」


 ――その上目遣いは反則です……。


「だ、大体。そこのお姫様はアンタのなんなよ!」


 俺がソフィアに目を奪われていると、冬香が俺とソフィアの間に割り込むように入ってきた。


「そう言う貴方こそ、悠馬の何なんですか?」


 ソフィアが笑顔で問いかけると、冬香は目を泳がせながら言った。


「わ、私!? 私は……えっと……そう! 悠馬の友達でライバルよ! で、今度こそ答えてもらうわよ! アンタは一体悠馬の何!?」


 冬香が問い返すと、ソフィアは笑った。


「私? 私というより悠馬が、私の騎士様よ。よろしくお願いしますね! 『お友達』兼『ライバル』さん!」


 それを聞いた瞬間、冬香は俺の胸倉を掴んで揺さぶった。


「ちょ! どういう事よ悠馬! き、騎士様って!」


「ご、誤解だ! ふざけて言ったことはあるけど、ソフィアが勝手に言ってるだけで! く、首締まッ! グエッ」


「悠馬はこう言ってるけど? お姫様?」


「あら、騎士とは元来王族が任命するものよ? おわかりかしら? 『お友達』さん?」


「ハハ」


「フフ」


「ハハハ」


「フフフ」


「アッハハハ!」


「ウフフフ!」


 ――取り敢えず喧嘩するのやめてくんないかな、後俺の首が締まってるから手を放してくれ冬香。


 俺が半ば意識を失いかけながらそんな事を考えていると、学園長室の扉が勢い良く開いた。


「学園長! 大変です!」





「本当に申し訳ない!」


 数分後、姉さんに薙刀を突き付けられたままの茜が俺に土下座をしていた。


「頭をあげて下さい、茜さん。今回に限っては茜さんのせいじゃないんですから」


「す、すまない。完全にこちら側のミスだ……ん? 今回に限っては?」


 実は俺を計測した装置は壊れていて、俺が最後尾だったために最後まで異常には気づかなかったらしい。で、そのまま俺のステータスは軒並み最底辺として評価された訳だ。


「で、どうするんですか? 望月理事長? もし、謝罪したから終わりだな! なんて言った日には……」


 姉さんはそう言いながら、茜の首に薙刀を突き付けた。


「ま、待て円華! 落ち着くんだ! 私がどうにかして悠馬をEクラスからSクラスに配置換えさせよう!」


「そんな事出来るんですか?」


「う……な、なに。上の連中はやれミスを認めるのか、やれ学院の評価が下がるだのごちゃごちゃ言うだろうが、一発殴ればきっと……」


「やめてください」


 ――この学校の上層部は腐ったのが多いから……邪神教団と繋がってる奴まで居るし。まぁそいつらも、物語が進むとその邪神教団に殺されるんですけどね……。


「だが……」


「良いんですよ。どうせどんな道辿ったって俺はEクラス行きだっただろうし」


 ――ナム・タルからドロップした例の腕輪付けたまんまうっかり計測受けたりね……。


 それにあるサブヒロインを助けるには、Eクラスの方が都合が良い。


「いや、それでは……」


 尚も食い下がろうとする茜に、俺は交換条件を提示した。


「じゃあ金のスキルオーブ一個で手を打ちましょう」


 金のスキルオーブ。虹までとはいかないものの、中々に強力なスキルが習得できる、希少性の高いアイテムだ。


「い、意外と高くついたな……だが分かった。用意しよう」


「そんじゃよろしくお願いしますね、茜さん。それじゃあ俺達は行くんで……オイ、二人共。いつまで睨み合ってるんだ、もう話もついたぞ」


 俺はまだ睨み合いを続けていた二人に、呆れた顔で言った。


「……女には負けられない戦いがあんのよ」


「そういう事だよ、悠馬」


「あ、あぁそう……じゃあ睨み合いながらでもどつきあいながらでも良いから、とりあえず行くぞ」


 俺がそう声を掛けると、二人は睨み合いながら器用に扉を開けて外に出た。


 ――無駄に器用だな、アレ。


「姉さんも帰ろうよ、腹も減ったし」


「あぁちょっと待ってくれ」


 姉さんはそう言うと、自分の首に突き付けられた薙刀がなくなったことで安堵している茜の胸倉を掴み、脅した。


「さて、学園長。普段から私は学園長がいくら職務怠慢で書類を溜め込んでも、大目に見た上に手伝ってきました」


「い、いや。手伝ってくれてるのは確かだが、大目に見てくれたことなんて……ごめんなさい」


 姉さんは茜が余計なことを言おうとすると、鋭い眼光で睨みつけた。


「大・目・に! 見てきました! ですが、もし同じような事をこの先悠馬にしでかしたら怒り殺しますよ?」


「わ、わかった。善処しよう!」


「善処?」


「や、約束する! かならず誓って悠馬にそんな事が起きないようにする! いや、します!」


「ええ、それではお願いしますね。望月学園長?」


 一通り茜を脅し終えた姉さんは、俺に笑顔で言った。


「さて、帰ろうか悠馬」


「……え? あ、ああ。うん」


 ――やっぱり姉さんには逆らわないようにしよ……。




 一日後。


「おい悠馬、昨日のアレはなんだったんだ?」


「別段何でもねえよ」


 俺は、昨日の何があったのかを聞いてくる遠山の追及を逃れながら、目的の人物へと話しかけるために、その人物の席へと向かった。


「ねえ、君」


 俺がそう声を掛けると、その少女はキョロキョロと周りを見渡した後、ビクッとしながら答えた。


「え? え? 私?」


「そうそう君だよ、俺の名前は鈴木悠馬。よろしく!」


「え、えっと……佐々木花音です……よ、よろしくお願いします……」


 俺が話しかけたのは、ラスティアの数ある理不尽の中でも屈指の鬱ルートとして名高いルートのサブヒロイン。

 黒髪ポニーテールで内気、メガネっ子のサブヒロイン。佐々木花音だった。




 ――さぁ、ここから始めよう。理不尽を打ち砕き、皆を救う為に。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 明日はワクチン接種で大学もバイトも吹っ飛ぶからな……何しよう? AIRを見て号泣しながら鳥の詩を聞くか、ホワイトアルバム2を見るか、もしくはゲームをやって胃痛を再発させながら泣くか、サマポケをして夏休みと離島に憧れながら号泣するか……

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