第3話 とりあえずの行動方針
状況を整理しよう、ここはラスティアの世界で最終決戦においてヒロインが必ず死ぬ。
ラスボスは三年生編の終盤に復活する、なのでそれまでにラスボスを超える力を手に入れること自体は可能。
しかし、その前に入学してすぐ鍛える間もなく乱入してきた下級眷属によって、俺はかませ犬よろしく一瞬で真っ二つになる。
「……あれ? これ無理ゲーでは?」
焦った俺は、まずは今がいつなのか確認するとした。
「先生!」
「おお悠馬君、どうしたんだい? そんなに慌てて」
「今って何年……いや、今俺は何歳なんですか!?」
「済まない悠馬君。君が記憶喪失なのは知っていたが、親御さんの事を思い出させてしまうとショックを受けると思って後回しにしてしまっていた。だけど、君自身が知りたいと言うのなら……」
そうして俺は先生から俺自身の事を教えてもらった。
俺は今、12歳で中一。父親は古物商で母親は弁護士だったとか。両親は家族で旅行中トラックと車が正面衝突して死亡、俺も生還こそしたものの記憶喪失。
残った肉親は祖父だけらしく、その祖父も世界各地を渡り歩いていて現在連絡がつかないと……
「すいません、先生。色々と聞いちゃって、でも本当に助かりました。ありがとうございます」
「いや、当然のことをしただけさ」
イザナギ学院に入学するのは15歳、原作開始までまだ時間はある。
本来、ダンジョンに入るには、学校に入学すると同時に手に入るエンフォーサーの資格とダンジョンに見合ったランクが必要だが、幸いにも俺には原作知識がある。
公式ガイドブック曰く、この制度には抜け道が二つある。一つは子弟制度、これはAランク以上のエンフォーサーには弟子を取る資格が与えられ、弟子はエンフォーサー育成学校を出ていなくてもBランクダンジョンまでなら師匠同伴で潜れる。
しかし、この方法は現実的ではない。まず、Aランク以上のエンフォーサーが少ないのだ。日本には5万人以上のエンフォーサーが居るが、Aランクだけでも1000人居るか居ないかのレベルで、その上のS、SSは更に少ないと公式ガイドブックに書いてあった。
ただでさえ少ない上に、その実力者たちの弟子にしてもらおうだなんてほぼ不可能だ。
そして二つ目。こちらが本命なのだが、エンフォーサー協会が発見していないダンジョンに潜って、モグリのエンフォーサーになる事。
本来であれば、早々簡単に未発見のダンジョンなんて見つからない。その上、難易度が分からないので限りなく危険だが、そこは俺の原作知識の出番という訳だ。
DLC1弾で追加された未発見ダンジョンの中に、偶に湧くランダムエンカウントモンスターが厄介だが、レベル上げにはもってこいのダンジョンがある。そのランダムエンカウントも、法則があって回避が可能なため俺ならば安全に潜れる。
ダンジョンでレベルを上げながら、入学に備え、下級眷属を撃退してまずは死ぬのを回避する。
その後、成長しながら各イベントも生き抜き、三年生編から潜れるようになるDLC3弾のダンジョンでエンドコンテンツ装備や、イザナギの力を回収してあの憎きラスボス、『魔神アスタロト』をフルボッコにしてハッピーエンド。
今までのヒロインと、散っていった数多の同志諸君の分まで恨みを晴らさせてもらおう。
「そういえばね、君の両親は自分たちに何かあったら息子を頼む、とご友人に頼み込んでいたそうだ。その方が良ければ君の面倒を見たいと言っているんだが、どうだね?会ってみないか?」
そうしてこれからの行動方針を決めていると、先生が思い出したように言う。
この時の俺は、特に深く考えることもせずにその話を受けた。
「やあ、君が相馬と涼子さんの子供だね。僕の名前は浅野潤、よろしくね」
その両親の友人だと言う男を見た時、俺の頭は真っ白になった。
男の名前は浅野潤。名門浅野家の当主にして、イザナギ学院の学園長でメインヒロインの一人である生徒会長の父親でもある。
しかし、その実態は死んだ妻を生き返らせる為に、邪神に協力して娘に邪神の欠片を移植するも、結局は妻も生き返らずに娘も邪神の半分を道連れに死んでしまい、最後は失意の中邪神に特攻して死ぬという哀れな男だ。
もし、この男に引き取られてしまうと、恐らく下手には動けない。メインヒロインの一人と同棲は物凄く魅力的なのだが、残念ながらそうなると恐らくヒロイン死亡エンド確定だろう。というかヒロイン死亡以前に俺が死ぬ。
「実はね、僕は君のお父さんの親友でね。もしもの時は君を頼むと言われていたんだ。だから君さえ良ければ、僕たちと一緒に生活しないか?」
考えろ! 考えるんだ! ここで頷くのは簡単だが、それだと俺が死ぬ! どうすれば!!
その時、俺に天啓が降りた。
「お話はとても嬉しいです……けど、記憶が無いとはいえ家族の思い出が詰まった家を捨てることはできないし、なによりもその、俺は両親の事を思い出したい! だから、俺は自分の家で暮らします。幸いにも掃除、家事、洗濯全部できますから。折角来てくださったのに申し訳ないです」
秘儀! これでもかと記憶喪失と両親の事を引き合いに出して同情心を誘う作戦である。
「そうだよね、家族の思い出を捨てることなんてできないし、ましてや覚えていないなら思い出したいよね……済まない、僕自身そのつらさは分かっているはずなのに君に善意を押し付けようとしてしまった」
「いえ! 正直自分の事を、両親以外にもここまで思ってくれる人がいるなんて。本当にありがとうございます、そして折角の提案を蹴ってしまってごめんなさい」
よっしゃオラァ! 見たか世界! 超大成功だ! なんか理事長も俺の事を自分に重ねてるっぽいし! これならなんとかなんだろ!
「分かった、なら僕は君が安心して暮らせるように最大限協力させてもらおう。色んな手続きとかは任せてくれ、きっと君がご両親と住んでいた家に安心して住めるようにしてみせるから。それくらいしないと、天国の君のお父さんに怒られてしまうからね」
「すみません……ありがとうございます」
そうして、我がラスティア生活最初の危機は去って行った。
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