第2話 好きなゲームに転生したと思ったら序盤に死ぬモブでした。

 エンフォーサーとはラスティア世界における、ダンジョンに潜りモンスターを狩る言わば冒険者的存在。


「え? おいおいマジでか! ここラスティアの世界なの? うっそ? マジで!? よっしゃあ!!」


 ラストティアーズ、通称ラスティア。ノベルゲーとダンジョンRPGが一体となった珍しい作品で、その奥深いゲーム性ややりこみ要素もさることながら、ヒロインも可愛く一世を風靡した作品だ。


 俺も勿論大ファンで、全クリした後もRTAをしたり、検証動画を投稿したりと人生の大半を費やした。


 しかし、俺はこのゲームが大好きなのだが、一つどうしても許せないことがある。

 

 それは……。


「このゲーム選んだルートのヒロインが死ぬんだよな」


 こればっかりは正しくクソゲー仕様である。ラスティアはノベルゲーなのでヒロインとデートしたり一緒に戦闘に出たり、その他にもプレゼントなど好感度の上げ方はたくさんある。

 しかもどれも専用CG付きで、ストーリー終盤になってくる頃には、もうゲームクリアなんて良いから、選んだルートのヒロインが幸せにいてくれるならそれでいい。そんなプレイヤーも続出するレベルでヒロインたちが可愛いのだ。

 しかし、選んだルートのヒロインはルートによって死因は様々だが、兎に角皆最終決戦で死んでしまう。


 おわかりいただけただろうか、推しのヒロインと結ばれるルート及びそのCGを回収するにはそのヒロインの専用ルートに進む必要がある。しかし、そのルートを選んだ先にはヒロイン死亡のお涙頂戴展開しかないのだ。

 

 当時プレイしていた俺は発狂した、当たり前だろ? だって今まで必死こいて好感度上げて、愛着も湧いてきたヒロインが選択の余地なしで死ぬんだぜ? ふざけてる。

 

 ちなみにこのゲームは途轍もなく売れたが、レビューは荒れに荒れた。強制泣きゲー展開シフトに、いや俺はこんなゲーム泣きゲーでたまるか! と思ったが公式が泣きゲーとして売っているんだから仕方ない。

 話が逸れた、泣きゲー展開に称賛を送る者とヒロインを意地でも殺したがる展開にブーイングを送る者……無論批判する側もこのゲームを愛しているが故のブーイングだが。

 まあ兎も角ぱっくりとこの二つにユーザーは別れた。え? 俺はどっちだって? 言わなくても分かるだろ。


 そしてもう一つ、レビューが荒れた原因がある。それは公式が仕込んでいた罠、改造対策である。

 改造をすると、ステータスやアイテムであれば禁術を使ったとして処刑される。また、ゲーム内ストーリーやゲーム内時間をいじると時空が崩壊して初期化しないと延々と真っ白な空間に主人公が漂う羽目になる。

 ……そして、一番ドギツイのがキャラクターに関してである。一人でも仲間キャラのステータスをいじれば、総スカンをくらう断罪イベでゲームオーバー。最悪なのが、改造で死亡したヒロインを蘇らせた場合、某〇の錬金術師の作り出した母親もどきのような、ゾンビ姿で復活するCGが初回起動時に再生されてしまう。

 しかも、セリフ付きでだ。愛したヒロインが床を這いずりながら、


「ねえ? ○○、私どうなってるの? いや! いやぁぁぁ! なにこれ!? どうして!? ○○! どうして私を……」


 なんて言うのだ。

 このセリフはヒロインによって多少違うが、確実にトラウマ待ったなしである。無論不完全な復活なので、主人公に向けて手を伸ばしたまま息絶えるCGを最後にゲームオーバー画面に移行する。

 な? ふざけてるだろ? なので俺はちゃんとしたルートでヒロインが死なないようにできないか模索した。

 これが先ほど言った検証動画につながるのだが、レベルをカンストさせようと、防御力をカッチカチに盛った上にダメージ軽減アイテムを使っても一撃で倒されてイベントシーンに移行。

 ならばと、最強装備でラスボス戦に臨むもHPが0にならないようになっていて、攻撃される前に倒すのは不可能だ。

 他にも様々な手段を試したが、メインで選んだヒロインの死は避けられないという結論しか出なかった。


 この結論に行き着いたとき、当時の俺は荒れに荒れた。なんたって自分の選んだヒロインはどうあがいても助けられないのだから。

 ルートを確定させた時点で詰みなのだ、というか主人公は死神ではなかろうか? 現に主人公が覚醒するのは竜の力か神の力かの二種類だし。

 ちなみに選ばなかったヒロインも、選択肢や戦闘結果次第では死んでしまうイベントが所々にちりばめられているから危険だ。まあそれについては回避できるのだが。


 しかし!! ゲームならば公式という悪魔に妨害されたが現実には公式が居ない! ならばきっと何とかなる! 

 実際、設定上もゲーム的にも最終決戦で覚醒してラスボスを倒した主人公の力より、もっと強い力を手に入れてラスボスに挑んでも強制的に負けイベントに突入したが、現実ならばあの悪魔は居ない。きっとラスボスも倒せるだろう。


 そう思い立ち、俺は現状とストーリーを確認した。

 

 物語はエンフォーサーを育成するイザナギエンフォーサー養成学院、通称イザナギ学院で繰り広げられる。

 そして主人公たちが入学して一か月ほどした時、突如としてダンジョンから出てくるはずのない邪神の眷属が襲来する。


 確か、こんな感じだ。




 ○○達が、校庭で魔法の訓練をしていると、突如として暗雲が立ち込めた。


「あれ? 暗くなったな」


「うーん、雨でも降るんじゃないか?」


 そんな生徒達の会話は、何か落下してきた衝撃と轟音によって遮られる。


「ハハハ! 恐れるがいい哀れな虫けらども! 偉大なる我らが神は復活なされる! さあその頭を垂れよ! さすれば我が下僕として貴様らを生かすこともやぶさかではない!」


 降ってきたのは、青白い顔をした男だった。


「なんだコイツ?」


「いきなり下僕にしてやるとか何とか生意気言いやがって」


「ちょっと痛い目に合わせてやる」


「待つんだ! 悠馬! 和人! 健介!」


 一緒に合同訓練をしていた鈴木悠馬、遠山和人、山田健介が男に向かって魔法を撃つ。


 ○○は咄嗟に止めるが、間に合わない。


「フン、惰弱な人間が。我に歯向かおうなどと、片腹痛いわ」


 男が腕を一振りすると、三人は真っ二つになる。


「どうしてダンジョンから出てこれないはずの邪神の眷属がここにいるんだ!?」


 ○○が叫ぶと、男はニヤリと笑った。


 ……あぁ、どっかで鈴木悠馬って聞いたことあると思ったら、序盤の下級邪神眷属に縦に真っ二つにされたかませ三人組か。え? いや、俺序盤に死ぬモブじゃん!?




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