第4話 面倒を見てくれる、通い妻系お姉さんはお好きですか?

 一週間後、遂に俺は病院を退院する事になった。


「先生、本当に色々とありがとうございました」


「悠馬君、体には気を付けるんだよ」


 最後に病院の玄関前で先生に別れの挨拶をして、自宅まで送ってくれるという浅野潤が手配してくれた車に乗り込み、俺は病院を後にする。



「ここが俺の家か……」


外から見た感じは、ごく普通の一般住宅だ。


「お邪魔しまーす。じゃなくてこれからはただいまか」


 早速家に入り玄関で靴を脱いで揃えていると、幸せそうな家族写真が目に映る。

 優しそうな女性と、いかにもビジネスマンって格好をした男性が俺と一緒に写っていた。


「これが親父とお袋か……」


 その後、家の中を一通り見て回り、大体何処に何があるかを把握した俺はリビングでボーっとテレビを見ていた。


『では、次のニュースです。Aランクエンフォーサーにして、モデルの尾野真司さんが2日前から行方不明になっていたことが判明しました。関係者によると……」


 ピンポーン


「はーい、今開けるんで待っててくれますか?」


 ガチャガチャと扉の鍵を外して扉を開けると、そこには黒髪ロングのいかにも大和撫子と言った風貌の美少女が立っていた。


「やあ、君が鈴木悠馬君だね? はじめまして。私は浅野円華、父の浅野潤に君の手伝いをするように頼まれた者だ」


 俺はこの人の事を知っている。

 彼女は浅野円華、三人居るメインヒロインの中の一人で、二個上の先輩にしてイザナギ学院の生徒会長。

 古武術の使い手で、本人は隠しているつもりだが可愛いものが好き。例の、父親に邪神の欠片を植え付けられるが、その邪神の半身を道連れにして死んでしまうヒロインだ。

 尚、ファンからは会長という愛称で親しまれている。


 さて、ここで唐突な質問だが。君たちはもし、自分の好きなゲームのヒロインが急に現れたらどうする? しかも絶世の美少女だ。

 さあ、考え付いたかな?では答え合わせをしよう。正解は、


「は、はじめまして! 俺は鈴木悠馬と言います! 好きなものはラスティアと給料日です! よろしくお願いします!」


 物凄くテンパりながら自己紹介をする、だ。


「ふふっ、ラスティアというのは分からんが、君もまだ中学生で給料日などまだ未経験だろう? 面白いことを言うな、よろしく頼むよ」


 慌てたせいで、つい本音が出てしまった……


 そのまま彼女をリビングに通し、ソファで向かい合う。


「あ、どうぞ。座ってください」


「む。ありがとう、ではお言葉に甘えて座らせてもらうよ」


「すいません……よろしくお願いします、円華さん。所で世話って一体……」


「その前に一ついいか?」


「はい、何でしょうか」


「敬語」


「はい?」


 そう俺が聞き返すと、彼女は微笑みながら言った。


「これから、ほぼ家族同然になるんだ。無論四六時中居られるわけではないがな。だから敬語、やめてくれないか?」


「えっと……」


 どうやら話を聞いてみると、彼女は浅野潤に俺の世話を頼まれたらしい。掃除や家事など一通りできるとは言っていたが、恐らく家から離れたくないが為に咄嗟に言ったんだろうと。

 だけど放ってはおけないから、彼女が手伝いに来たらしい……


 確かに、中学一年生が一人で暮らせるって言い張っても信用性はないな。それに、下手に家で一緒に暮らそうと言われるよりも100万倍マシだ。


 俺は、彼女の一日一回学校帰りに様子を見に来る。という提案を受け入れることにした。


「それじゃあよろしく……ええと、なんて呼べば?」


 会長……は今まだ彼女は生徒会長じゃないし。俺が呼び方で困っていると、彼女はポツリと声を漏らす。


「お姉ちゃん」


「なんて?」


「私のことは円華お姉ちゃんと呼びなさい」


 おっと、原作では全くそんな素振り微塵もなかったが、まさかこの方急に姉を自称しちゃう感じの人だったのか?


「えっと……」


「ダメ、か。弟が出来たみたいで嬉しかったんだ。その、お父様も滅多に帰ってこないし。新しい家族が出来たと思って舞い上がってしまっていたな。済まない」


 彼女はそう言うと、しょんぼりとしてしまった。クソ、卑怯だぞ!! 美少女にそう言われて、断れる奴なんて居るわけないじゃねえか!


「お姉ちゃん」


「!?」


 俺がそう呼ぶと、彼女は猛烈な勢いで顔を上げた。


「ま、円華お姉ちゃん」


「もう一回頼む!」


「円華姉さん!」


「頼む! さっきみたいに円華お姉ちゃんって呼んでおくれ!」


「気恥ずかしいんだよ! 円華姉さんでも十分だろ!」


 尚も円華姉さんはブーブー言っていたが、彼女の呼び方は円華姉さんに決定した。何が悲しくて、中身は俺の方が年上なのに中三の女の子をお姉ちゃん呼びせにゃならんのだ。


 その後、冷蔵庫が空だったので円華姉さんと近くのスーパーへ買い出しに行った。


「ここはお姉ちゃんに任せるといい!」


 と言うので円華姉さんに任せてみることにした、めんどくさいしカレーにしようかと思ってたんだが。


「さあ、今日のご飯はチャーハンだ!!」


 ――大丈夫かぁ? 円華姉さんは他二人のヒロインと違って料理描写が一切ないんだが……ってなにこれ、滅茶苦茶美味しい。


「え? ナニコレ、滅茶苦茶旨いんだけど……」


「そうか! 口に合うようなら何よりだ!」


 俺は、暫く味気ない病院食ばかり食べていたという事もあり、勢い良く口の中に掻き込み、姉さんにお代わりを要求した。


「お代わり!!」

 

「こらこら、もっとゆっくり落ち着いて食べなさい。たくさん作ってあるし、無くなったりはしないから」


 姉さんは苦笑しながらも、何処か嬉しそうにお代わりをよそってくれる。


 そうして、満腹になって俺はソファで横になり、姉さんは俺の横に座りながら二人でテレビを見ていたが、時計が十時に差し掛かると姉さんが帰り支度をし始めた。


「それじゃあ、また明日くるからな」


「それじゃあ、また明日」


 玄関から姉さんを見送った後、俺は考え込んでいた。


 姉さんと会話していて気が付いたのだが、どうやら俺の精神はこの体に引っ張られているらしい。

 そして後から気が付いたのだが、食事中などは特に精神が中一の頃に戻っていた。少し厄介だが、まぁ外見は中一なのに精神はおっさんだなんて気持ち悪いだろうし、案外良かったかもしれない。


「やっぱりあんなにいい人を見殺しにして良いなんてことないよな」


 強くならないといけない理由がもう一つ増えたと、俺は決意を新たにする。


 その後、夜中の間ダンジョンにてレベル上げを行うため、下準備をして家を出た。

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