第5話 入院生活
何かしていないと、また泣き出してしまう、と感じた私はルカさんから渡された「入院生活」を読むことにしました。
入院要項
まず、ここに入院する人がどんな人か知ってください。
患者さんは「だれも見ていない場所で死にかけている」事を条件としてこの病院に収容されてきた人々です。ここで見かける人は皆、そういう境遇にあります。
「棟」について。
「棟」は要は「病棟」の略です。病棟には種類があります。
全ての「棟」は女神の間に出入り口があります。
病気の種類では棟は分けられません。種族によって分けられます。
「人間棟」「天使棟」「悪魔棟」「特殊棟」「寮」です。
外出許可のある患者は、女神の間から外に出ることもできます。
ただし、他の棟の患者さんも出入りしますので、喧嘩は口喧嘩以外はご法度です。
喧嘩ははじめられた時点で検知され、すぐに鎮圧されます。
外には「庭園」「丘」「湖」そして「墓場」があります。
あちらこちらに休憩所があり、欲しいものは、「寮」の購買(無料です)で手に入ります。また、購買に無ければ、下働きの者に言えば大抵のものは手に入ります。
下働きの者は様々な恰好をしていますが、腕にCallMe《コールミー》の腕章を着けていますので、すぐにわかるかと思います。
最後に、治療費のお支払いですが、一切いただいておりません。
ただ、当院のスポンサーであるヴァンパイアたちのために、献血をお願いできたら幸いです。もちろん強制いたしません、自由意思での献血のみとなっております。
この点に関しまして、お気にかかることがございましたら、各棟の看護婦長にお聞きください。
簡素な内容でしたが、大体の事は分かります。
院長先生の魂の中である程度ここの常識を吸収していたらしく、天使、悪魔の存在について疑う気持ちは湧いてきません。
「やぁ、そろそろ案内文を読んでくれた頃かな?」
「はい」
「それは良かった。実はね、キミにはリハビリとして、下働きをお願いしようと思っているんだけど―—―ここまではいい?」
「はい、死にたいとはもう思いませんが、一人でいると尽きない思いがわきあがってきて、どうしても整理がつかないので………昼間だけでも働けるのなら」
「そうだねぇ、看護師長なんてやってると24時間勤務になりがちだけど、それはおいといて」
とものを横に置く動作をするルカさん。
「下働きなんだけど―――実はエルシーと相談して、キミは天使棟所属にすることにした。その方がいいってあいつも言ってくれてね」
「天使棟⁈そ、そんな、恐れ多いです。雑用も何をすればいいのか………!」
「だーいじょうぶ大丈夫。割と普通の雑用だから。それにね、天使棟にいる方が、キミの思いが昇華されていくと思うよ?朝昼夕はお祈り!夜は神に懺悔を聞いてもらえる!最高の告解相手だろう?」
「神様って………天使の方に失礼ですけど、存在するのでしょうか」
「もちろんいるとも、キミも日々祈りを重ねれば、いつか神と「通じ合えた」と感じるはずだ。そして救われたと感じるはずだよ」
そう言ってルカさんは「祈り入門」と書かれた本と、木の聖印―――太陽教のもの。椀の形をしており、盛り上がっている方に太陽が彫られたもの―—―を私の膝に置いて
「入門用だよん。お祈りのレベルが上がったと思ったら、またプレゼントするからね。さ、部屋に案内するからこっちにおいで」
おっと、スリッパをどうぞ。と、何もない場所から、白いスリッパを出してくる。
「手品じゃないんですよね。魔法なんですよね?」
そう私は聞いてみる、魔法王国フィーウの無辜の民の映像が、私の脳を駆け巡る。
「そうだよって、あちゃー。引っかかっちゃった?でも魔法はここにいる職員なら皆ある程度は使えるから慣れないとダメだよ。とにかく、リハビリとして、下働きを頑張ろう。」
さあ、部屋に案内するよ、といってルカさんは軽い足取りで歩き始めた。
わたしはあわててスリッパを履くと、ルカさんの後ろについて行くのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます