第6話 信仰のはじまり①

「寮」の1階奥に、部屋を用意してもらった。

 私は、優しい色合いの石のタイルでできた大き目の部屋に案内されました。ピンクがかった石です。そして淡い色の木でできた寝台。

 そして小さな祭壇。蝋燭立てがふたつと、蝋燭が2つ。「やさしい聖書」と書かれた書物と聖書が置いてあります。

「これじゃすぐ足りなくなるだろうけど、蝋燭は、購買においてあるからねー。」

 それからね、と

「日記をつけてみるのもいいよ。」

 と、書き物机を振り返る。もうすでに、日記に最適な分厚いノートと羽ペンとインクが置いてあった。羽ペンなんて使ったことがない。前世紀の遺物だ。

 でも、たしかに、この罪悪感を日記に塗りこめたら、少しは楽になるかも………。

 わたしはこの時、暗い顔をしていた自覚がある。

 ルカさんは、私の顔を覗き込んで

「そんな顔しないの」

 と言った。

「まぁ、お仕事を始めたら、少しは落ち着くさ。後で君の先輩を寄越すから、色々教えて貰いなよ。」

 そういってルカさんは、退室していった。大変な患者さんが居る病院だから、さぞかし忙しいのだろう。忙しそうに歩いていく。

 部屋の中を見回すと、片隅にはホウキ。と、ささやかなクローゼット。

 扉を開けると、「服が欲しい場合、下働きにどんな服が欲しいか、要望を伝えること」と書いた札が下がっていた。

 部屋の中央には、人を呼べそうな、小さいけどしっかりしたテーブルセット。

 全体的に、優しい、暖かい色合いでまとめられた部屋だった。

 そういうことをしていても、溢れてくる思いが止まらない。ベットに座って、また泣き出してしまった。ごめんなさい、ごめんなさい………。

 私の悲痛な思考を中断させたのはノックの音だった

 涙を拭って

「どうぞ」

 と言うと、彼女は部屋に入ってきた。

 白い髪はウェーブのかかったロングヘア。真っ白な肌。金色の瞳。そして、ふかふかしていそうな一対の翼は天使の証だ。濃紺のメイド服を着ている。

 優しそうな顔が、泣き腫らした私の顔を見て、困ったような表情を浮かべる

「あららぁ、もうちょっと早く来るべきだったわねぇ」

 と、とてもおっとりした口調と声で言った。

「私の名前はエアリー。名前の通り風天よぉ。あ、そこら辺はぁ、後で覚えたらいいからぁ。私はあなたが一人でお仕事できるようになるまでぇ、一緒に仕事するヒトよぉ。さぁ、泣いてないでぇ、まずは購買の被服科に行きましょう!」

 エアリーさんは、私の手を引っ張って立ち上がらせた。

「好きな服装とか、あるの?」

「特にはないです。」

 服どころではない人生だったというのが、本当のところである。

「それはダメねぇ」

「え?」

「好きな服で働くからぁ、モチベーションが上がるんじゃないぃ!被服科へ行けばぁ、きっと好みの服が見つかるわぁ!」

「そういうものですか?」

 私も女のはしくれ、綺麗な服を着てみたいという願望は、ある。

「そういうものよぉ。それを狙ってぇ、下働きの服は自由になっているんだからぁ」

 そんなやり取りをしてる間に購買に着いた。私の部屋は1階。購買も1階なので近いのである。

 部屋に案内された時にも、ちらっと見たが、これは購買なんて大人しい物じゃない、ここは商店街だ。

 エアリーさん曰く、最初は確かに購買だったのが、看護師や下働きたちの要望に応えて、こういう形になったらしい。

 お弁当を売っている店が多いようだ。あとは電気屋とか、裁縫店とか………。

「看護師さんは制服だけどぉ、休みの日は被服科で作ってもらった服を着ているわぁ。そのうち見る機会があると思うわよぅ」

「はぁ………」

「あ、ここよぉ、被服科」

 入口は控えめだったが、中は広く、すっごくたくさんの服が置いてあった。

 選べません、と言いかけて、私は一つの服に目を止めた。

 修道女の服だ。これから、太陽教の信仰を学ぶのなら、これはふさわしいのではないだろうか。ただ、黒は好みでないので、濃い青に変更。かぶりものはなしで。

 そう伝えると、すぐ採寸して、魔法も駆使してるみたい。その場で仕上げてくれた。

 色違いで何枚か作るように、エアリーさんに言われたので、暗紅色と、濃緑をオーダーしておいた。

「寝間着も選ぶのよぅ」

 と、エアリーさんにせっつかれた

 私は、柔らかいが簡素な、白いネグリジェを選ぶ。帽子つきのやつだ。

 これは、色違いは要らない、とエアリーさんに言う。

「科学王国ルベリア出身の割にぃ、古風なものを選ぶわねぇ。それが自覚してなかった貴女の好みなのかもしれないわねぇ」


「さぁ、服はできたからぁ、次は祈りを覚えましょうねぇ。とは言っても、最初は仕事始めの祈りとぉ、仕事終わりの祈りとぉ、神様に懺悔を聞いてもらうための祈―――主の祈りの三つだけよぉ。「主の祈り」は他でも使うから忘れないでねぇ」

 私は、彼女から祈りを教わった。

「「やさしい聖書」にも書いてあるからぁ、わからなくなったらあれ見てねぇ」

「はい、わかりました」

「「主の祈り」は今日からでもぉ、唱えるといいわよぅ」

「………そう、ですね。やってみます」


 そのあと、エアリーさんに、いろいろ教えて貰って、夜

 わたしは緊張しながら


 天におられるわたしたちの主よ

 み名が聖とされますように

 みこころが天に行われるとおり地にも行われますように

 わたしたちの日ごとの糧を今日も お与えください

 わたしたちの罪をおゆるしください

 わたしたちも人をゆるします

 わたしたちを誘惑におちいらせず、悪からお救いください。


 何も感じない。でも最初だし、私にはまだ信仰心なんて芽生えてないから、当たり前だろう。そのまま懺悔をすることにした

「神よ、私は罪を犯しました………」

 ……… ……… ………

 泣きながら、吐き出したいものをすべて吐き出して、疲れからか、祈りの成果か、ぼんやりしてきました。蝋燭を消してそのまま、寝台に向かいます。

 おやすみなさい………。

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