第2話 冒険者

「お母さん、僕、冒険者になりたい!」


「駄目よ。冒険者はとても辛い仕事なのよ」


「なんでなんで!」


冒険者になりたいと思ったのは、ニコが7歳の時だった。

父が冒険者になり、魔物を次々と倒していく姿を見て、自分も強くなりたいと憧れたのだ。


しかし、ニコの家庭はとても貧乏だった。

食糧は父が魔物を狩っていたりしているが、家の中は清潔ではなかった。

あちこちで埃や苔が舞っている。こんな生活もうんざりだった。


「ほらっ、早く掃除を手伝いなさい」


「いやだいやだ! 僕、冒険者になる!」


「わがまま言わないの!」


「わがままじゃないっ!」


母との喧嘩は毎日だ。父や友が呆れる程長く続く。

ニコは不思議だった。どうして、自分はこんな貧乏な家庭に生まれてしまったのだろう。

どうして、冒険者になってはいけないのだろう。

どうして、母は自分を大切に思ってくれないのだろう。


(はぁ……お母さん、僕のことなんてどうでもいいのかなぁ……)


そう思うと段々と悲しみが湧き出てくるので、今は考えない様にした。

しかし、冒険者が辛いということも理解はできる。


命懸けで魔物と戦わなくてはならないし、毎日村の住人の手伝い、ダンジョンの攻略、クエストの攻略をしなければならないのだ。


だが、それがニコと憧れるきっかけとなった。


その命懸けで頑張る、ということが冒険者としてかっこいいのだ。

少しでも村を守ろう、とする父や冒険者の熱い心が、ニコの心を揺さぶってしまったらしい。


(お母さんがなんと言おうと、僕は絶対にいつか冒険者になる!)


♢♦︎♦︎♦︎♢


その日から何年経っただろう。

それからニコは15歳になった。


ニコは冒険の準備をしていた。

武器、食糧、地図を鞄に詰めて、近くに置いてある棚を見つめる。


棚の上にはニコの父と母とニコが楽しそうに草むらで遊んでいる写真がある。


ニコはその写真のそばに、小さな花を一本添えてやった。

その棚の横に、魔物の血が一滴垂れていた。


ニコは鞄を背負い、そして立ち上がった。


「今度こそ、本当にお別れだ。お父さん、お母さん」


そして家を出る。

暖かくて気持ちいい風が、ニコを出迎える。

ニコは家に振り返り、笑顔で言った。


「行ってきます」


こうして、ニコは歩き出した。

これが、旅の始まりだった。

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とある目的を持つ敵に殺された少年は、冒険者と復讐がしたい様だ〜精霊になった少年と冒険者になった少年の物語〜 月影 @ayagoma

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