とある目的を持つ敵に殺された少年は、冒険者と復讐がしたい様だ〜精霊になった少年と冒険者になった少年の物語〜

月影

第1話 姿

(ああ、気持ちいいなぁ)


僕は花畑で昼寝をしていた。

いつもなら母に怒られるが、今回だけは懸命に頼んで「ちょっとだけよ」と言ってくれた。


ここに来るのは久々だった。魔物に襲撃され家を引っ越してから、たまに祖父の墓に備える花を集めるとき以来だ。


この土地なら魔物も来ないし、家も壊されない。いつも通りの平和な暮らしを楽しむことができる。


しかも、僕には友達ができた。


名前はテル。僕と同い年の少女だ。

テルとはたまにこの花畑でも遊ぶことがある。その時間が人生で一番幸せだ。

僕は寝転がったまま、ズボンのポケットからネックレスを取り出した。


そのネックレスの先には、丸い水晶の塊が付けられていた。 

そう、このネックレスはテルからもらったものだ。


「ふふ、幸せだなぁ……」


僕は座り直し、ネックレスを取り付けた。これは僕の宝物にしよう、そう考えながら。


僕はニコッと笑い、視線を前に移動した。

風が気持ちいい。たまに強い風が来るが、周りの花びらが散ってとても綺麗だ。


僕はまた寝転がり、目を閉じた。そして、テルのことを考える。


(次はいつ遊べるかなぁ。あっ、ここのお花を使ってリースを作ってあげよう! 喜んでくれるかな? 楽しみだなぁ)


視界が薄れ、眠ろうとしたそのときだった。

あの足音が聞こえたのは--。



ザクッ、ザクッと音が僕の耳に届いた。

僕は目を開け、ゆっくりと立ち上がった。


目の前に男がいた。

上からじっと僕を見つめている。


「あ、あの、おじさん、誰?」


「お前はここの住人か?」


僕の言葉をかき消す様に、男が口を開いた。


「え、そ、そうだけど……おじさんは何な……」


そう言いかけた僕に、男はナイフを振り下ろした。


♢♦︎♦︎♦︎♢


真っ白な世界。


僕は目を覚ました。

周りが全て真っ白だ。木も、空も、あの土地もない。


「ここ、どこ……」


僕は微かに声でそう呟いた。


ああ、ここは天国か。

僕は死んでしまったのか。少女と遊べないまま。


僕は、不思議に思った。少女の名前が思い出せない。

僕にとって、何よりも大切な存在だったはずなのに。


あいつだ。あの男のせいだ。

あいつが、僕を殺したからだ。今までの全てを台無しにしたからだ。

ああ、憎い。あいつが憎い。


そう思っても、もう僕には何もできない。

全て、手遅れなんだ。


『違いますよ。あなたは私が、「復讐モノ」に変えましたから』


後ろから声が聞こえた。

振り向くと、綺麗な白い男性が立っていた。

『こんにちは』と、笑顔で僕に微笑みかける。


僕の付けているネックレスがシャラシャラと鳴る。

僕の白い服がヒラヒラと踊る。


この光景に、僕は立ちすくむしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る