第10話:信綱、異世界へ行く10
「……それは……ダメ」
「そっか」
どこまでも優しく応答するパワーだった。僕にも斟酌くらいはしてほしい。
「おいでフォース」
「……お姉ちゃん」
姉と妹で抱擁し合う。ちょっと背徳的だけどおそらく他意はないのだろう。そう信じたい僕でございまして。
「……うう……うええ」
フォースはパワーの胸の中で泣いていた。パワーは抱きついてきたフォースを抱き返してその頭を撫でている。燈色の瞳に映るのは慰安。心底フォースを溺愛しているらしい。
「いい子いい子」
何気に純情ドリーム。
「……あう……そっちは……御苦労をおかけして」
僕の方をオドオド見ながら小動物。
「そっちも万死に値するんだが」
だから誤解だって。弁明に関しては油断せず。パワーはパチンと指を鳴らした。
「上泉」
「何でっしゃろ?」
「いっきに借金を減らす口実が欲しくはないか?」
「戦場で死ぬ以外に方法があるならば」
そこだけは譲れない。いくら状況に流されやすいのが僕の悪癖でも、命と等価交換できるモノでは当然ない。
「なに。簡単な話だ」
「それはこっちで決めます」
「貴様の本分は学生といったな?」
「さいです」
「ではストーカー養成学院に通え」
なんだその危ない名前の学院は?
ストーカーを養成する教育機関が存在するのか?
あまりといえばあまりのインパクトに沈思黙考する僕。
「推薦状を書いてやる。貴様、年齢はいくつだ?」
「十六ですが」
「うむ。ならばフォースと同じ学年だな。クラスメイトになれるように手配しよう」
「ええと……」
待った待った。
「学院に通う? 妹さん……フォースと同じクラス?」
「うむ」
快活に頷かれた。
「でも右も左もわかりませんよ?」
「大丈夫だ。その辺はフォースに聞け」
さくじつ会ったばっかりなんですが……。しかも初見の印象は最悪に近似する。
「で、だ」
僕の心の叫びを無視してパワーは続ける。
「フォースの友達になってやってくれ」
「…………」
何の意味が?
そんな視線をやる。
「別途報酬を出そう。私のダイレクトストーカーの修繕費に充ててやる」
「それは……」
垂涎といえば大げさだけど面倒がなくていいのは本心で。
「……ふえ……上泉が……友達?」
フォースは舌っ足らずに問う。燈の瞳には困惑が映っていた。
「いいであろう上泉? こちらがその身を保護してやっているんだ。それくらいはお茶の子さいさいだろう」
それで借金が返せるなら否やはありませんがね。
「フォースは友達がいないの?」
「……いない……よ?」
ぼっちか……。
シスコンのパワーが憂慮するのも頷ける。
「まぁほぼ私のせいなのだがフォースはスクールカースト最底辺でな。もしよければフォースの味方になってやってくれ。その分だけ報酬も弾もう」
「ストーカー養成学院……ね」
まさか言葉通りの学院ではないだろうけど。
「いいですよ」
あっさりと僕は頷いた。
「……ふえ」
とフォース。パワーと同じ燈色の瞳には疑心暗鬼が漂っていた。ゆらゆらと不安にフォースの髪をくくっているリボンが揺れる。まるで新しい環境に怯える猫の尾っぽの様だった……といえば言い過ぎかな?
「……上泉が……私の……友達?」
「ええ、よろしく」
僕は手を差し出す。握手を求めているのだ。ところで手錠はいつ外れるので。異世界故に通じるかどうかはわからなかったけど杞憂だったらしくフォースは僕の手を握った。
「……よろしく」
ギュッと手を握って愛らしく笑うフォースだった。
「うむ」
とパワーが満足げに頷く。燈色の瞳には罪悪感なぞ一片も見受けられない。
さすがだ。
「では権力で物を言わせて上泉……貴様をストーカー養成学院にねじ込む。虐められているフォースの保護および慰安を任せるぞ?」
「それくらいで借金が返せるなら望むところです」
やっぱり状況に流されやすい悪癖が発生した。
……駄目だなぁ僕は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます