第11話:ストーカー養成学院01
「というわけで今日からクラスメイトとなる男子です。自己紹介をお願いします」
教師は僕に水を向けた。
「へえ。お控えなすって。こちら生国は日ほ……じゃない……燈の国。しがない剣術家の倅で名を上泉伊勢守信綱と申します。呼びにくければ上泉……と。右も左もわからない田舎者ですからよろしくご教授願います」
そしてペコリと一礼。
何かといえば先述したストーカー養成学院への編入に際し、クラスに溶け込めるよう愛想を示している最中と云うわけだ。
ストーカー養成学院はフォースの姉であり将軍でもあるパワーの統治するパワー砦から馬で三日のところにあった。案外近いのには当然理由がある。ストーカー養成学院が軍事学校としての側面も持つからだ。こっちの世界でストーカーと言えば、異性に付き纏って愛情表現と云う名の嫌がらせをする人間のことではなく、ダイレクトストーカーの操縦者を指すらしい。
ダイレクトストーカー。
それがこの世界のカギだ。一般的に言って僕のセカンドコンタクトであった(ファーストコンタクトはラッキースケベであったのは何だかな)パワーが駆っていた人型巨大ロボットを指す。こちらの世界において戦争はダイレクトストーカー同士で行なうものらしく、そのための兵器としての機能を持ち、つまりストーカー養成学院はダイレクトストーカーのパイロットを育成して燈の国の戦力と為す機関というわけだ。
さらに言えばダイレクトストーカーを動かせるのは魔術師だけらしく、魔素を感じ取れない一般人には無用の長物とのこと。ある種ストーカーは名誉職とも言えるかもしれない。ストーカーが名誉職……文字通りに捉えるとアタマのズツウがイタくなるけど。重複表現。
「いちいちエリート志向の吹き溜まりだからその辺は覚悟しておけ」
とはパワーの言。
うんざりする他ない。
まぁ……とはいえパワー砦で傭兵として迎えられ、戦死した後の給付金で僕が壊したパワーのダイレクトストーカーの修繕費に充てられるよりはずっとマシではあるんだけどね。
で、基準世界の日本の大学みたいな階段状の教室を少し見上げながら営業スマイル。
「よろしく」
そう言って僕は自己紹介を終えた。
ちなみに今の僕の服装は学ランである。ストーカー養成学院には制服はあるものの強制はされておらず、つまり私服登校もオーケーとのことなので僕は学ランを採用した。パワーに無茶を言って漆黒の学ラン風味の着回し用の服も用意させてもらった。さすがにポリエステルはこの世界には存在しないので、あくまで学ラン風味の衣服である。見た目は完全に学ランなので僕としても文句は無い。あまり服には興味が無いから黒色の選択は必然で、学ランはジャージと等しく体裁を気にすることが無いため重宝する僕だった。
閑話休題。
僕は自己紹介を終えると階段状の教室を上までのぼっていき、それから一人ポツンと隅っこに陣取っているフォースの隣に座った。
ヒラヒラと手を振る
「よろしく」
「……よろしくおねぎゃいします」
可愛い噛み方をするね。
うーん……八十ポイント。
「無理矢理ねじ込まれたから教科書や参考書は届いてないんだ。見せてくれる?」
「……うん」
コクリと頷くフォース。
言葉に怯えが混じっているのは対人恐怖症故だろうか?
ぼっちならあり得るから困る。教室の敬愛すべきクラスメイトたちは僕の挙動にざわついていた。
曰く、
「フォース狙いかよ」
「節穴だな」
「十字切りたくなってきたわ」
「ってことはアイツも劣等生?」
そんなざわめきだった。イジメを受けているということは既に聞いているので驚くことでもない。予定調和だ。
と、
「……あの」
フォースがおどおどしながら僕に言葉をかける。
「なに?」
なるたけおびえさせない様にお返事。
「……私の……お姉ちゃんは……ああ言ったけど……私と一緒にいると……上泉も……虐められるよ?」
つっかえつっかえにそんなことを言うフォース。
――可愛いなぁもう!
僕はフォースの燈色の髪をクシャクシャと撫ぜた。
「気にしなくていいよ。今から僕がフォースの友達第一号だ」
「……友達?」
「友達」
ト~トロジ~。
コックリと頷く。
「……それは……お姉ちゃんに……言われたから……でしょ?」
「それもある」
「……無理しなくて……いいよ? ……私は……一人で……大丈夫だから」
言葉自体は真摯なモノだったが燈色の瞳が全てを裏切っている。SOS信号をその双眸に映しこんでいるのだ。もし仮に僕がここでフォースを虐めるクラスメイトたちに迎合すればフォースは更なる他人に対する疑心を深めるだろう。それだけは避けねばならなかった。少なくとも孤独に怯える少女を見捨てるのは侍として如何なモノか。
「だいじょーぶぃ」
安心させるようにナデナデ。
「何があっても僕はフォースの味方だから」
「……でも私は」
「劣等生かな? それでどうかしたの?」
「……いいの?」
「主語は明確に」
「……私は……上泉を……友達だと……思っていいの?」
「少なくとも僕はそのつもりだけどなぁ……」
本心だ。
「……それは……やっぱり……お姉ちゃんの……ダイレクトストーカーを……壊したお詫びに……ってこと?」
「フォースが可愛いってこと」
「……ふえ」
フォースは目に見えて狼狽する。頬を紅潮させる。
可愛い可愛い。
「僕には騎士道なんかないから僕の信条に誓おうか。君の心が安んずるときは僕の心も同じく安んずる。君が涙を流せば僕は君を慰める。君が心を痛めたのなら抱きしめて大丈夫と囁こう。そして君に危険が迫れば命を懸けて助けてあげる」
「……ふえ」
「だから何も心配しないで。契約しよう。僕はフォースの友達だ」
「……あう」
耳まで真っ赤になるフォースであった。
これは惚れられたかな?
勘違いならそれでいいんだけど。
「代わりと言っちゃなんだけど……」
「……なに?」
「この世界のことについて教えてくれないかな?」
「……うん。……いいよ」
そう言ってフォースは微笑んだ。
眩暈がした。
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