父と息子の、始めまして。



 ……ん? あれ、俺は確か、さっき部屋に戻って寝たはずだが。

 あぁ分かった、夢だ。なんて言うんだっけ、自分の意思で動ける夢。まぁ名前は何でも良いか。

「ママぁ」

「あらどうしたの修一、何かあったの?」

 ん、おっ! 小さい修一に、若い美智子だ。

「あのね、ぼくね、きょうようちえんでおえかきしたの」

「みて! ママとここね! あのね、かぞくをかくっていうのやったの」

 家族を描くねぇ、そんなのもあるんだな。

 いかにも幼稚園生の絵という感じで、画用紙にクレヨンで描かれた、可愛らしい絵だ。

「あらぁ、上手に描けてるわねぇ~」

「へへっ、ぼくがんばったの」

 修一は、褒められて嬉しそうだ。可愛いなぁ、そういや修一にもこんな時期があった。

「けどね、みんな『パパ』もいるっていうの。ねぇママ、ぼくのパパってどこにいるの?」

 あー……。そっか、そうなるよな。

 どこにいる、か。そうだな、俺は、どこにいるんだろうな。

「そうねぇ」

「案外、傍にいてくれてるはずよ? だってあの人、息子が産まれるのを本当に楽しみにしてたもの」

「そっかぁ。じゃあパパもかいてあげないとね! クレヨンどこかな……」

 ……あぁ、無邪気ってのはこういうのを言うんだろうなぁ。はは、顔も合わせられていないのに、父親って言ってくれるのか。

 あーあ、俺も息子育てたかったな。せめて、一年だけでも。いや、俺が生きていたら修一は産まれなかったんだ、そばで見ていられるだけ良いってものか。我儘はよくないよな。

「あ、小さい頃の俺いる……わぁ、俺も可愛かったもんだなぁ」

 お、今の修一だ。夢の中だっちゅーのに、随分リアルな反応するのな。

「そりゃ、明晰夢だからだろ?」

 あー、それだそれ! 明晰夢。お前賢いな!

「だろー?」

「……って、え」

『ん、あれ? 今、返事した?』

「え、そりゃ話しかけられたから……そ、それにしても、なんか」

「もしかして、父さん?」

 修一は俺の事を認識している。

 これが、夢だから? 修一も俺を認識できるのか? それとも、俺の都合のいい夢か。

 まぁ夢でもいい、俺は一度、話すだけでも話したかったんだ。

『いかにも。俺がお前の父親、中井修造だ!』

「マジでか。えっと、初めまして?」

『まぁ、話すのはお初だな』

 写真は、何回か美智子が見せていたけどな。

「ははっ、父さんかぁ。一度会ってみたいなとは思ってたけど、夢の中に出てくるなんて。もしかして、母さんが父さんに相談してみればだなんて言ったからか?」

『んー、まぁそういう事でいいんじゃない?』

「適当かよ」

『適当でいいんだよ、答えを出さなくていい物に関しては』

 話せてる。会話が成り立ってる。凄い、思っていたより数倍嬉しいな。

 俺の息子、初めてだ。初めて父さんって呼ばれた。

『にしても、よく分かったな。俺の顔見たことないだろ』

「そりゃ見たことないけど、見ればわかるだろ。どんだけ母さんに似てる似てる言われたか。それで顔の想定くらい出来るよ」

 それもそうか。そんな似ていない父親なら分からないのも仕方ないけど、似ているなら粗方見りゃ分かるか。

「確かに、俺も大人になったらこんなんなんかなぁって感じ」

『そうだな。俺もお前を見てると若い頃を思い出すぞ』

 そうそう、まさに俺なんだ。若い頃のな。細かいところはともかく、大きく違うところを探す方が難しいってな。

『美少女好きってところも、性癖もほぼ同じだ。お前に関しては俺の遺伝子が強すぎる』

「それ、母さんにも似たようなこと言われた事ある。『私の遺伝子ほとんどない』ってさ。女だったら逆に母さんに似てたのかなぁ」

『どーだろうなぁ』

 美智子似の娘か、そりゃすっごく、エロ……じゃなくて、可愛かっただろうな。

「そういや父さん、天国って実際にあった? 流石に、自分の父親が地獄に行くような人じゃないって信じてるけど」

『安心しろ、地獄にはいってねぇし、地獄に堕ちる程の悪行はしたことない。けど、まだ行ってないから分からないな。気が済むまで息子の事見守ってて良いって言うからさ、あったとしても、行くのは大分先だろうなぁ』

「じゃあ、母さんが言ってた『見えないだけでそばにいる』ってのは、あながち間違いじゃなかったんだなぁ」

『そう言う事。ちなみに、お前がエロ同人年齢詐称してダウンロードしてたのを俺はばっちし見てたぞ!』

 面白いな、俺の言葉に反応して表情変えてる。動揺した修一がこうして見られるなんて、いい物だ。

「……母さんには、内緒にしていただけるとありがたいです」

『大丈夫だ。俺もお前の歳にそんなんあったら絶対やってるから』

 そもそも、告げ口することは出来ないしな。

『にしてもお前、大変だなぁ。連日告白される事なんてないぞ?』

「あー、やっぱ知ってる?」

『見てたからな』

「そっか」

 修一、やっぱ悩んでるか。そりゃそうよな、同じ状況だったら俺だって悩むわ。だけど、そうだな。一応、俺としての意見を言わせてもらうか。

『俺から言わせれば、無理に今すぐけりを付けなくていいと思うぞ。答えを出さなくていい事には適当でいいが、答えを出さないといけない事に関しては適当じゃダメだ』

『とりあえず、理屈とか倫理とか気にせず楽しめ。お前もハーレムモン見てるだろ? あの狐の巨乳ロリちゃんがいるやつ。俺もあの狐が推しだぞ、巨乳ロリも中々いいよな、分かるぞ』

 おっと、思わず性癖が。最初で最後かもしれないから、格好付けなきゃ。

『それはともかくだな。あの主人公みたいに振舞っている方が、ずっと考えているよりも早く答えが出る。あの状況じゃ楽しんだモン勝ちだよ』

『たぶん』

「たぶんで説得力ほとんど消えたよ」

「まぁ、そっか。そうしてみるよ。ありがと、父さん」

 って、修一?

 まぁ、夢なんだから突然消えても可笑しくないよな。きちんと話せただけでも良かったって事か。

 にしても、夢ってこんなにはっきりとしている物だっけな。いくらあれでも限度があるだろ。なんだっけ、もう忘れっちゃった。俺の脳みそも歳取ったな。えっと、めい、めい……あぁ、明晰夢だ!

 ……ん、美智子じゃないか! はぁー、やっぱこの頃の美智子はわっけぇなぁ。付き合ったばかりの頃だ。すっげぇ美少女。可愛いなぁ。

 んー、やっぱ巨乳っていいっ――


「……あら、眠っちゃったの。このくらい耐えてくれなきゃ、本番の時心配ねぇ」

「まぁ、今はそれでいいわよ。時間はたっぷりあるわ」

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